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信号で止まり、横に座る藍川さんへ目を向ける。
ニコニコ楽しそうに笑ってはあちこち見ているらしい。
そんなに珍しい建物なんてないのに。
「小波くん、この道をまっすぐ右へ行くとテレビ局だよ。」
「そうなんですね。…藍川さんはもうテレビ出ないんですか?」
「うーん…お誘い自体は今でも時々もらうんだけどね。本を出してないのにテレビに出たいなんて思えないよ。」
「そうですよね…。」
そういえば、普通にこうやって話していて本題が逸れていた。
あくまでも本を書いてもらうのが目的で俺はそのサポートをしないといけない。
いやまぁ…生活習慣を改めさせたりするのも初歩的なサポートな気がするけれど。
「藍川さん、本が書けないって言ってましたよね。それって…こう、物語が思いつかないってことですか?」
「なんて言うんだろう。紙に向かってペンを持つよね。…そしたら頭の中が真っ白になって何もわからなくなるんだ。書きたかったことも、なにもかも。」
「それは…」
「あはは。でもね、頭が空っぽなままなわけじゃないんだよ。思い浮かぶことはある。」
「例えば?」
そうだね、と言うと藍川さんが遠くを見つめる。
それと同時に青くなった信号機。
アクセルを踏んで真っ直ぐに走り出した。
小さな呼吸音が聞こえたあと、大きな笑い声に変わる。
「あはは、ダメだなあ。小波くんを前にしてだと上手く言葉にならない。」
「えぇ…俺、妨害してます?」
「そうじゃないんだけどね。むしろ小波くんが来てから前よりも想像力がついた気がするんだ。後は形にするだけ。」
「それじゃ、また…」
「うん。きっと書けるようになるよ。」
ニコリと俺へ優しい笑顔が向けられる。
運転中の俺にはその4分の1も見えてはいないのだけど。
曲がり角を曲がるともうお目当てのショッピングモールだ。
警備員の案内のままに駐車場へ入っていく。
「そのためには毎日美味しいご飯を食べないとね。」
「はいはい、…それくらいいくらでも作りますよ。」
「ふふ、ありがとう。…さて、到着だね。」
「ですね。食料品は最後として…何から行きましょうか。」
「掃除機にしよう、他のものは最低近くのお店で買えるからね。」
「え?でも持ち運ぶの大変じゃ…」
そこまで言うと、藍川さんが困ったように笑った。
空いている所へ車を止める。
止まった後、まだ帰ってこない返事に藍川さんへ目を向けると申し訳なさそうに眉を下げて言った。
「今日は迷惑をかけるだろうけど、よろしくね。」
「え…?」
この後すぐ、俺はこの言葉の意味を知るようになるのだけど。
忘れていたわけじゃなかったはずなのに。
この人がテレビから引っ張りだこになるような"天才作家 藍川"だってことを。
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