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さらに二人前のスパゲッティを盛って上から粉チーズをかける。
藍川さんはカウンターに座ったまま少し遠くを見たままだ。
…この人は感情の移り変わりが激しいな。
「出来ましたよ。」
「ん?…ありがとう、向こうで食べようか。」
「はい。」
まるで藍川さんの中に何人も人がいるみたいだ。
普段の藍川さん。
作家の藍川さん。
それから、俺の知らない藍川さん。
ふとした時に現れる感情の変化が怖い。
「いただきます。」
「どうぞ。」
「…んー、…やっぱりトマトソースが一番美味しいね。小波君は何が好き?」
「俺はペペロンチーノですかね。辛いのが結構好きなんで。」
「辛いのかぁ…小波くんと味覚は合わないみたいだ。」
「逆に俺たち何か似てます?見た目も好みも、性格も真逆だと思うんですけど…」
藍川さんの私生活の過ごし方的にも俺の真逆だ。
むしろ似てるところの方が見つからない。
藍川さんは食べていたスパゲッティをごくん、と飲み込むと首をかしげた。
「うーん…あ、本だ。」
「…確かに。」
「あはは、俺も小波くんもパッと見は本とは無縁そうだけどね。」
そこまで言い切ると大口でスパゲッティを頬張る。
俺からすれば藍川さんと本はイコールで結び付くレベルなんだけど。
ニコニコと嬉しそうに食べる藍川さんを遮るようにじっと見つめる。
「藍川さんが本を読む…いや、書くようになったきっかけってなんなんですか?」
「…そんなに知りたい?」
目を伏せてクルクルとスパゲッティを巻く。
上がりっぱなしだった口角が下がり、どこか切ない顔になる。
俺の知らない藍川さん。
まだ 知れない藍川さんの顔だ。
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