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優しい夢の中にいたはずなのに。
ガタガタガタ、とどこかから崩れる音が聞こえ大きな足音が近寄ってくる。
あれ なんの音だろう。
何かが 俺の幸せを壊していく。
「──!!」
誰かが何かを叫んでいる。
目を開くと目の前には誰かの顔。
濃い眉毛に短い髪。
肌も使い古し、目もあんまり綺麗な形じゃない。
それはひっきりなしに何かを叫んでは俺の目の前から動かない。
…あれ、どこかで見たことある顔だ。
誰だっけ。
確か 悪い人ではないはず。
「…藍川!!」
「はい、…藍川です。」
「俺の可愛い部下を放置してお昼寝か?さぞ素敵な原稿が出来上がってるんだろうなぁ?」
「……ええと。」
とりあえず身体を起こしてぼやけた目を擦る。
…誰だっけこの人。
見覚えのあるような無いような顔を見ながらうーん、と首を傾げる。
ふと横を見るとあわわ、と慌てたような小波くんの顔。
彼の知り合いであるのは間違いないらしい。
「おい、お前また俺のこと忘れてんじゃないだろうな…」
「申し訳ないのですが…その、記憶になくて。」
「いい加減そのポンコツな頭どうにかならねぇのか天才作家さん。お前をここまで育てたのは誰だと思ってんだ?」
「……あ、出版社の人ですか。」
「出版社の人だ。はぁ、…わざわざお家まで来てやったのにその反応か。」
「そんな顔でしたっけ?どうにも記憶に残りにくくて。すみません、不便なので名前を聞いてもいいですか?」
「吉田だ、忘れんな。」
そういえばそんな人がいたような気がする。
いつも電話口でしか会わないから顔を見てもピンとこない。
ただでさえ俺は人の顔と名前を覚えるのが苦手だから仕方ない。
「なんの御用ですか?」
「催促だ。」
「…何のです。」
「原稿に決まってるだろ。」
ニッ、と楽しそうに笑ったその人は俺へ期待の目を向けてくる。
残念ながら一文字たりともこの家に今文字は置いてないのだけれど。
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