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本を読んで文字を覚えた。
本を読んで世界を知った。
本を読んで数字を覚えた。
本を読んで世間を知った。
「…馬鹿でも、学校に行ってよかったんだ。」
人にはお父さんとお母さんがいて。
たまに兄弟がいて。
普通は一緒に暮らしてるってこと。
知らなかった。
「お兄ちゃん。」
「なに?眠れない?」
「うん。本読んで!」
「全部読んじゃったよ。」
「でも聞きたい…お兄ちゃん、お話作って!」
「お兄ちゃんが?」
ベッドから聞こえる春の声にうーん、と首を傾げる。
春の好きなお話は現実離れしたお話。
例えば犬が喋ったり、空を飛べたり。
でも折角ならとびきり幸せなお話がいい。
…だから。
「春はお家にいます。その家の屋根は3角で、窓は四角。…春は何色が好き?」
「みどり!」
「壁は緑色のお家です。家には春とお兄ちゃん、それから優しいお母さんとかっこいいお父さんが一緒に住んでます。」
「やったぁ!」
「空にはくじらがとんでいて、朝になるとくじらが町のみんなを起こしてくれます。…春達は朝になったらお母さんが作った美味しいご飯を食べて森に出かけます。」
「どうして?」
「森の神様とお祭りをするため。」
「お祭り、すき!」
その日から 俺達は2人でたくさんのお話を作った。
全部 少し都合がいい話。
春が好きなものを詰め込んだ話。
毎日、毎日 そんな話を作った。
時々 紙に書いたり それをテープで留めて本にしたりした。
春にとっては寝る前の暇つぶしで
俺にとっては それが世界だった。
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