アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
23
-
風が吹く度、庭の若葉が揺れた。
若葉に溜まった朝露が揺れ 落ち 月の光が満ちて輝く。
「君はどこから来たんだい。」
「僕は あの空から。」
月の光はそう笑い庭を駆け回る。
膝の上に置いたままの原稿用紙をじっと見つめる。
毎日少しずつ進むお話。
お兄ちゃんのお話は 他のどんな本よりもキラキラで楽しい。
「…僕だけじゃもったいないなぁ。」
動けないまま一人でつぶやく。
僕は何にもできないけど…もしかしたら、学校の先生は何かしてくれるかも。
「藍くん、学校行こうね。」
「ね、先生!この原稿用紙とね、そこに置いてある原稿用紙全部ランドセルに入れて欲しいの。」
「いいよ。学校に持っていくの?」
「うん!」
たくさんのお兄ちゃんのお話と一緒に学校へ向かう。
お兄ちゃんと一緒にいるみたいでちょっと楽しい。
学校に着くと、僕は正門で学校の先生にバトンタッチされる。
「藍くんいってらっしゃい。」
「いってきまーす!」
学校の先生に車椅子を押されながら僕はじっと上を見上げた。
「先生、ランドセルの中にね、僕のお兄ちゃんが書いたお話が入ってるの。」
「憂くんの?」
「うん。すっごくキラキラで、ピカピカだから先生にも読んで欲しくて持ってきたんだ!」
「そうなんだ。それじゃちょっと借りてもいいかな?」
「うん!」
教室に着くと先生は僕のランドセルから原稿用紙を取り出して、番号通りに並び替えて読んでいく。
くじらのお話、森の妖精のお話、月の光のお話。
全部キラキラで夢みたいなんだ。
「…これ、本当に憂くんが書いたの?」
「うん!」
「信じられない、…大人でもこんな文、書けない。」
読み終えた先生は僕の顔と原稿用紙を見ながら驚いたような顔をしてそう言った。
…そうなんだ、お兄ちゃんはすっごいんだ。
先生は"憂くんは悪い子"なんて言うけどそんなの嘘。
お兄ちゃんはすごくて何でもできるから。
「ねぇ藍くん。これ少しだけ借りてもいいかな。」
「いいよ!」
「ありがとう。すぐに返すからね。」
先生は約束通り、次の日には原稿用紙を全部返してくれた。
でも それから一つだけ変わったことがある。
お兄ちゃんが 僕だけのお兄ちゃんじゃなくなっていくこと。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
124 / 208