アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
24
-
今は何時だろう。
ひとり、布団の中で蹲ってドアを見つめる。
この部屋に来てからもう何日経ったかわからない。
この部屋にはカレンダーも季節もないから。
1年 もしかしたら 2年。
もう それすらわからない。
昔と同じだ。
ママが帰ってくるのをずっと待っていた。
今は あのドアが開くのを待っている。
開いたら少しだけ人間になれるから。
藍にあって少しだけ話せるから。
「…本、読みたい。」
呟いたってどこにも届かない。
俺はどうしてここにいるんだろう。
その時、閉じていた扉がゆっくりと開いた。
「…憂くん、お客さんだよ。」
「お客さん…?」
「早く立ち上がって玄関まで行くんだ。早く。」
「はい、…っ…」
俺は怖くて慌てて立ち上がる。
裸足のまま、出来るだけ早く歩いていく。
走ったら お仕置きをされるから。
玄関まで行くと知らない人が2人立っていた。
…誰、だろう。
俺は怖くなって
「はじめまして。」
とだけ言った。
すると片方の人は顔を顰め、もう一人の人は優しく笑った。
「憂くん、覚えてない?学校でいつも藍くんや憂くんと一緒にいた…」
…どうしよう、わからない。
背の高い大人の人は沢山いたし俺が話したことのある大人だって何人かいたから。
わからないと言ったら 怒られる。
「ぇ、……っと…」
「覚えてないなら仕方ないね。今日は憂くんに大切なお話があってきたの。」
「…大切な、…?」
とうとう 生きている価値が無くなったとか
ここにはもういられなくなるとか
殺されるとか 死ぬべきだとか
そんな 事かな
それならもうそれで いいかもしれない。
「この人は、出版社の吉田さん。」
「…しゅっぱんしゃ、…」
「本を出している会社の偉い人なの。貴方の書いたお話をね、藍くんが私に見せてくれて。色んな会社に送って…やっと貴方を才能を認めてくれる方に出会えたの。」
「ごめんなさい…俺、あんまり…話すの、聞くの…得意じゃなくて。」
「書くのはどうだ。」
「…え?」
「書くのは得意じゃないのか。」
男の人は俺を見てそういった。
怖い。
低い声は先生に似てる。
服の袖をじっと握りしめて答えを探す。
書くのは得意じゃない?
きっと、得意じゃない。
誰にも褒められたことがないから。
でも 得意じゃないけど
「…好きです。」
「なら充分だ。今日からお前はうちの作家だ。俺が絶対にお前をベストセラー作家にしてやる。…お前は、天才だ。」
何もかも くすんで
壊れて 滲んでいた世界が
急に 開いた そんな気がした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
125 / 208