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「はい、お疲れ様でーす!」
その声に肩の力が抜ける。
…失敗した。
テレビの収録中、しかも生放送で倒れるなんて一番あっちゃいけないことだ。
昨日寝ずに本を書いてたのが悪かったみたい。
「藍川さん、本当に大丈夫ですか?」
「はい、すみません。…もう無いようにするので。」
…あれ、気持ち悪い。
吐きそう。
「いえいえ。SNSでもただ眠くなっただけかな、って通ってるんで全然問題ないです。普段のキャラがここで役立ちましたね。」
「あはは…すみません、急ぎの用事があるので今日は失礼します。」
「あぁ、はい。お疲れ様でした。」
「お疲れ様です。」
偉い人に頭を下げて楽屋へ戻る。
早く戻らないと、こんなとこで吐いたりしたらそれこそ大問題だ。
口を抑えて楽屋へ上がり扉の鍵を締める。
気持ち悪い、なんで。
「ぅ"、っ……」
トイレへ駆け込んで屈んだ瞬間、口から胃液が溢れ出る。
最近何も食べてないから出るものなんてない。
それなのに喉を焼くような痛みと酸っぱさに襲われる。
「…藍川さん、大丈夫ですか!?」
その声に慌てて顔を上げる。
きっと酷い顔をしてる、でもそんな事すら気にできない。
顔を上げた先、心配そうな顔で俺を見下ろす彼はいつもより大きく見えて。
「ごめん、ね…平気。」
「平気じゃないですよ。吐いた方が楽ですか?治まるまでここにいます。」
「…ありがと。」
優しく君が笑う。
大きな俺へ伸びてきて、頭に触れ
「…小波、くん。」
触れずに。
君は、また消えた。
1人きり、冷たい床の上に座り込んで胸の中でグルグル回る気持ち悪さをまた吐き出す。
もう何も出ないよ。
涙さえ枯れてしまったから。
「ごめんなさい、…っ…ごめ、ん…っ…」
便器へそう吐き出して目を閉じる。
そうだね。
当たり前に戻っただけなんだ。
君に出会う前はずっとこうだったのに。
いつの間にか、君が助けてくれるんじゃないかなんて。
守ってくれるんじゃないかなんて。
そんな期待をしてしまうようになったんだね。
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