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覚
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車で携帯を握りしめてじっと扉を見つめていた。
昨日の夜、吉田さんから急に電話がかかってきたかと思うと
『藍川が殺されてるかもしれない』
なんて言われて駆けつけてきた。
訳を聞けば、誰かに襲われているかもしれないだとか拘束されているかも知れないだとか何もかも憶測でしかなかった。
けれど、藍川さんの昔の事を思えばあり得る話だった。
…どうして、あの人はこんなに幸せになれないんだろ。
胸が痛くて 苦しい。
もう何時間も経っているような気がして何度も時計を見るがまだ10分も経っていない。
その時
じっと目を離さずに見ていた扉がゆっくりと開き、険しい顔をした吉田さんとその腕でぐったりとした藍川さんが出てきた。
「藍川さん、…っ…」
「小波、後ろの座席を倒せ。こいつを寝かせろ。」
「…何、…が…、?」
吉田さんの腕に抱かれた藍川さんはビクビクと体が揺れていて、聞いた事の無いような声を漏らすだけでそれ以外はもう何も機能してなかった。
いや、何も自由が無かった。
俺は動けずにじっとその2人を見ている事しか出来ない。
「早くしろ。コイツを殺したいのか。」
「っ、すみません…、…」
その声にはッとして慌てて座席を倒す。
吉田さんは後部座席へ藍川さんを寝かせると初めに目を覆っていた布を外した。
虚ろな目はぼんやりと何処かを見つめていて、焦点が合っていない。
泣き続けたせいか目は真っ赤に腫れている。
「…何が、あったんですか…?」
「想像通りだ。相当酷い目にあっていたみたいだな。…薬漬けか。中身やられてないだろうな、これ。」
「やく、…薬、ですか!?」
「だろうな。おい、藍川。聞こえるか?」
会話をしながら耳栓と口を塞いでいたボールを取り吉田さんが藍川さんの体を揺らす。
藍川さんはまだ呆然とどこかを見つめ枯れた声を漏らすだけだ。
「……ろ、…っ、て……」
「なんだ?もう一回言え。」
「…こ、…ろし、て……」
その声に、両手を拘束していたテープを剥がしていた吉田さんの手が止まった。
藍川さんは続ける。
「殺、して……し、にた…い、っ…こ、ろ…し…」
「っ死にたいなんて言わないでください!!生きるんでしょう!?生きたいって、そう思えるって言ったじゃないですか…!!」
「…そうだ。お前は生きるんだぞ。しっかりしろ。」
「…生き、…る…っぅ"、ぐ…っ、ぁ…、」
そう言うと藍川さんの目が見開かれて身体が痙攣するようにガクガクと震えた。
一際大きく一度ガクン、と揺れると目がゆっくりと閉じもう身体は動かなくなった。
目から涙が落ちて長い睫毛を伝って落ちていく。
「…死、……」
「気を失っただけだ。薬、…となんか変なもん入れられてるのかもな。お前、運転頼んでいいか?」
「……わかり、ました。どこへ…?」
「会社まで頼む。」
放心状態のまま、言われるままに運転席へ座る。
久しぶりにやっと出会えたはずの望んでいた人は変わり果てた姿でした。
どうして世界はこんなに貴方を嫌ったんですか?
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