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一人より二人
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何事も無かったかのように始まった興味の無い映画をぼーっと見ていた。
それはあの小説の世界とはまるで違う、どこにでもあるような安っぽい映像。
俺が見たかったのはこんなものじゃない。
横には空席がひとつ。
まだ吉田さんは帰ってこない。
映画が始まって30分以上は経っている。
藍川さんの身に何かあったのかもしれない。
いや、違う。
俺とあの人はもう他人で、こんなこと気にする権利もないはずで。
『君に出会えて本当によかったよ』
『ありがとう』 『さよなら』
脳裏に過ぎったあの日の、あの人の言葉。
あの人が俺に向けて発した最後の言葉。
貴方は 本当に俺を嫌ってしまったのですか?
「どうせ何もかも失うくらいなら、俺達だけは諦めないでいよう。」
「もう無理だよ、何もかも沈んじゃうんだよ。」
「違う!君と俺がいればもう何も恐くない。一つだけの幸せを守ろう。」
スピーカーから聞こえるセリフ。
一文字も違えずに小説のままだ。
一つだけの幸せ。
俺にとっての幸せが、あの人の幸せ。
それなら今あの人は幸せだと言えるのか?
「俺、が……」
俺が、幸せを守らないといけない。
例えもう 俺のことを覚えていなくても。
ねぇ 覚えてますか。
俺と貴方が初めて出会った日のことを。
俺は覚えています。
貴方が 優しくて 綺麗で そして酷く悲しかったことを。
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