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桜舞うこの季節???
「????。卒業生代表、榊 玲司。」
僕たちは、卒業する。
??????
???
「春人様ーーっ!」
「ご卒業おめでとうございますっ」
「うわーーんっ!卒業しないでくださいっ」
下級生の涙混じりの声を受けて、破顔する。
僕、藤峰 春人は卒業を惜しまれる先輩であれたようだ。それがとても???嬉しい。
1年の時に書記を、2年では副会長を務めた僕は
役職と、己の容姿も相俟って
常に人目に晒される学園生活を送っていた。
高等部だけではない。
幼等部から存在するこの学園は、日本の所謂セレブの子息令嬢専用だった。
幼等部と初等部こそ令嬢達と共に学んだが、中等部からは完全に男女分けられ、しかも大自然の山の中での寮生活。
一般的な寮生活に比べれば、その水準の高さは一目瞭然だが
遊べる場所や異性と出会う場所から遠く離れたこの地では、生徒の娯楽は限られる。
多くの生徒の考え方が偏っている
所謂、王道と言われるこの学園では、容姿と家柄が重視された。
生徒達の娯楽は、そんな優れた容姿・家柄の学生の観賞。
あるいは
長い男子校生活で、自然と出てくる同性愛。
今この学園での恋が、一生ものだと言わんばかりに
脇目もふらずにひた走る。
父は世界的に有名なホテル王。
母は元モデルのデザイナー。
兄が1人いて、父のホテル経営を継ぐのは兄に決定している。
次男の僕だが、家柄は誰もが一流と賞賛した。
僕自身は
西洋人形のようだと幼い頃から言われてきた
薄い茶色の髪と目に
白い肌。
身長こそ平均並みにあるものの、肉付きの悪い身体。
所謂ネコやタチと呼ばれる両方の人間から、注目されていることを
幼い頃から理解していた。
この学園で、
容姿、家柄共に一流であると賞された僕や他の学生達は
幼等部のころから憧憬、崇拝、恋慕、…嫉妬???様々な視線に晒されて育った。
僕には、大規模な親衛隊なるものが存在した。
中等部に上がってすぐに結成されたその組織は、親衛対象を尊敬・思慕する生徒により構成される。思慕は崇拝へと成長し、親衛対象に近づく者を選別し始めた。
僕は、ずっとそれが嫌だった。
友達くらい自分で選びたかった。
でも自分が不用意に近づけば、その相手が傷つく事を知った。
親衛隊は無かったが、初等部のときから似たような事はあった。
だからもう、自分と同じような境遇の生徒としか話さないようにしていた。
親衛隊による崇拝のための過剰な行動が、僕は怖かったのだ。
だがその親衛隊の暴走は、僕が高等部2年に上がった時からパッタリと無くなった。
親衛隊長が代替わりしたのだ。新しい隊長は僕の1個下の後輩だったが、とても巧く隊をまとめてくれた。
彼のおかげで、僕は親衛隊と交流を図るようになり
時には悩みを相談したり、穏やかにお茶を飲んだり???。
とても良い関係を構築する事が出来たのだ。
卒業式の会場だった体育館を出ると、親衛隊の生徒達に呼ばれる。
「春人様っ、お時間よろしいですか?」
目に涙を浮かべたその学生に頷いて、その輪に入る。
「「「「春人様、ご卒業おめでとうございます!!」」」」
声を合わせて卒業を祝ってもらう。
「あの、これを…どうぞ!」
その中の1人から、とても大きな花束を受け取った。
「ありがとう…綺麗だね。」
自然と笑顔が浮かぶ。
途端に、周りを囲む生徒たちが泣き始める。
中には、僕と一緒に卒業する3年生もいる。
「うぅ…はる、ひと様…!」
「寂しいです…っ」
自分の卒業を祝い、惜しみ泣いてくれる人がいる。
それはとても光栄な事だと思った。
最初は、毛嫌いしていた親衛隊だったが
ちゃんと話してみれば、当たり前だが彼らも僕と同じ学生で
僕を慕ってくれる良い生徒たち。
僕の想い・考えを話して、納得してもらえたときは
なぜもっと早く話さなかったのだろう、と後悔した。
だから、今日はきちんと言おう。
「みんな、あの、これまで本当にありがとう。
親衛隊と分かり合えて、まだ2年足らずだけど…君たちの存在は、とても心強かった。
僕を絶対的に信じ、支援してくれる存在があったこと
それは僕を正しい道へと導いてくれた。
???2年のときも。」
あのコが転校して来たときも???。
その言葉に、誰もが唇を噛み締めた。
「あのとき、僕はこの学園生活で1番
??????苦しかった。
…辛かった。
何度も、副会長を辞めたいと…思った。」
あのコが来て、学園は荒れた。
僕を除く生徒会役員や、1学年下のあのコの周りにいた人気の学生達が
次々とあのコに惚れたのだ。
外から来た転校生は、とても新鮮だったから。
ここの風習に染まっていないあのコは、僕のような境遇にいる学生から見ると
とても眩しく感じてしまったようだ。
それだけなら、まだ良かった。
各々の学生の親衛隊は、動かなかった。
だが、生徒会役員の職務放棄や、あのコに惚れた不良学生による過剰暴行、器物破損など
問題が次々に涌いて出た。
学園の雰囲気は、どんどん悪くなっていった。
僕や、生徒会と同等の権限をもつ風紀委員会は
問題の解決に奔走した。
生徒会長、副会長、書記、会計、庶務???5つの役職分の職務を1人でこなすのに
睡眠時間はほとんど取れなかった。
それでも
どんなに頑張っても、間に合わない書類が出て来た。
色々な行事や会議が、杜撰なまま行われてしまった。
そして
その様子を黙って見ていられなかった生徒会長達の親衛隊が、動いてしまった。
あのコに、会いに行ってしまったのだ。
生徒会役員に職務を全うするよう、言ってくれないか
そうお願いする予定だったらしい。
だが、お願いする前に
あのコを呼び出した時点で、会長達を怒らせた。
会長達は、以前の僕と同じように親衛隊を毛嫌いし、偏見を持っていた。
僕のミスだった。
僕がもっともっと頑張って、書類を処理して期限に間に合わせていたら
起こらなかったかも知れない。
呼び出した親衛隊の生徒達に、停学と自室謹慎が命じられた。
本当は退学を、と会長達は言ったのだけれど
転校生に実質的な危害が加えられた訳ではない。というか、何も起こってはいなかった。
だから学校側に、聞き入れられなかった。
それでも停学者が出たのは、偏に会長達の家の権力である。
多くの生徒が処分を受けたその出来事は、学園の歴史に残る最低の事件だった。
「状況は好転しなくて、むしろどんどん悪くなって…。
いくら処理しても終わらない書類に、本当に嫌気が差した。
僕だけがなんで…って、思って
???副会長を辞めようとしたんだ…。
でもね、」
辛そうな顔の親衛隊を見る。
「君たちが、『本当に辛くなったら、辞めても良いんですよ』って言ってくれて…。
すごく、???気が楽になった。
何だろう…逃げ道を作ってもらったって、いうのかな…。
…ふふっ、差し入れ持って来てもらったり、逃げ道を作ってもらったり…、本当に支えられてばかりだったね。」
自然と笑顔が浮かぶ。
「君たちがいてくれたから、頑張ろうって思った。中途半端で投げ出したら、後任の人がもっと辛い思いをするし…。
何より、副会長っていう立場は…僕の、誇りでもあった。
僕を副会長に推してくれた生徒達を…君たちを、落胆させたくはなかった。
だからこそ、僕は頑張れたんだ。
…まぁ、結局は醜態を晒したんだけどね。」
そう、結局僕の想いに体がついて来なくて
過労で倒れてしまったのだ。
倒れた理由は多分、過労だけじゃないんだけど。
「それでも、僕を最後まで信じて支えてくれた君たちは
僕の???誇りだ。
本当に感謝してる。今まで??????ありがとうございました。」
親衛隊全体を見渡して、頭を下げた。
親衛隊は、頭を下げた僕に慌てふためきながらも
「うわぁあ!春人様っ頭を上げてくださいいいい!!」
「僕、一生春人様の親衛隊でいますっ!」
「俺も春人様の親衛隊だったこと、誇りに思いますっ」
そんな、嬉しい言葉をくれた。
「春人様、新しい場所でもお互い頑張りましょう!」
そう言ってくれたのは、僕と同じ卒業証書を持った生徒。
その言葉に
ああ、このコ達にはきっとバレてるんだな
と、思った。
だから、
「ありがとう。僕は自分の信じる道を進むよ。」
と力強く頷いた。
親衛隊のみんなに個別に言葉を貰って
体育館を離れようとした。
「春人様。」
聞こえたのは、慣れ親しんだ人の声。
「澤田さんっ」
振り返ると、にこやかな笑みを浮かべた初老の男性。
僕の家の執事だ。
駆け寄った僕に、澤田さんは頭を下げる。
「ご卒業おめでとうございます。」
「ありがとう。父さんと母さんは?」
「式の間はおられたのですが、お仕事のため先にお帰りになりました。
御二人からも、春人様へのお祝いの言葉を託かっております。」
「そっか。相変わらず忙しそうだね。」
慌ただしく出て行く両親の姿を思い、笑う。
忙しいながらも、僕や兄の学校行事に何とか都合をつけて来てくれる両親には
感謝こそすれど、不満などない。
それに昨日、一昨日にも父、母、兄からそれぞれ電話で祝ってもらっている。
「良いご友人をお持ちになりましたね。」
先ほどの親衛隊との会話を、聞かれていたようだ。
「うん、とても心強い…友達だった。」
誇らしげに話す僕を、澤田さんは微笑ましく見守る。
「澤田さん、あとどれくらい時間に余裕があるかな?」
そう聞いた僕に
「そうですね…あと1時間少々??でしょうか。
どうぞ、私の事はお気に為さらず、時間の許す限り学園での最後をご堪能ください。」
全てを心得たように澤田さんは笑う。
その言葉に一言謝って
卒業証書と花束を預けた僕は、
ひとり 歩き始めた。
あと数時間後に
僕は、???日本を発つ。
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