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最後の願い(1)
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「俺は悪魔だ。貴様の寿命と引き換えに願いを1つだけ叶えてやろう。わっはっはっはっ」
お決まりの台詞と共に人間界に飛び出してみたら、目の前にいたのはまだ6歳ほどのかわいらしい少年だった。
「うわー!あくまだ!あくまだ!ほんとに出てきたー!」
少年は悪魔の書を手に持ち、目をキラキラさせてはしゃいでいる。
「うぉっほん。わかっていないようだな。わかりやすく説明しよう。…あのねー、おじさんはぼくの願いを叶えてあげるけどねー、かわりにぼくの命を奪っちゃうの。あ、難しいかな?いのちをー、うばうっていうのはー」
「死ぬってことだろー!馬鹿にすんなし!」
「わかってない。わかってない。死ぬっていうのは君の全部がなくなっちゃうってことで…」
「あのね!ぼくのお願いはね!」
俺の言葉を遮って、少年は大声で話す。
「あと100回願いを叶えてもらうことー!どうだ!」
「い、いや、どうだ!と言われてもだな…」
少年は腕を組み、自慢げに俺の反応をうかがっている。
かわいい。
「あのねー、おじさんね、そういうの今まで何回も言われたことあるんだけど、全部お断りしてるの。なんでかわかるー?ずるいから」
「ふえぇ。だめなの…?」
少年は目をうるうるさせている。
正直言ってかわいい。
「んんんっ。だ、だめっていうか…」
「おねがいっ。おねがいっ」
少年はお尻をふりふりしながら俺を見上げている。
いかん。かわいすぎる。
「うーーん。じゃあ特別!特別に、願いを100回叶えてあげよう。ただし、それっきりだ」
「わーい!あくまさんだいすきー!」
「わーい!」
「それでね、最初のお願いなんだけど」
「なんだ?」
「ぼくね、てんがいこどくなの。だからあくまさん、ぼくが死ぬまでいっしょにいて?」
「ぐへへへへ喜んでえええ!」
かくして俺は、この少年の奴隷になった。
それから7年が過ぎた。
少年は中学生になったが、その可愛らしさは増すばかり。無垢な笑顔を向けられると、なんでもしてやりたくなってしまう。
「ねえ、あくまさん!ちょっと来てー」
「はいっ。すぐに行きます」
俺を呼ぶ少年の声が聞こえたため、急いで向かう。
『ぼくには敬語を使ってほしいな』というのは少年の5番目の願いだ。
「お呼びでしょうか」
「おそーい。何してたの?」
「夕飯の支度をしておりました」
『ご飯を毎日作ってほしいな』というのは少年の2番目の願いだ。
「ふーん。今日のご飯は何?」
「白ご飯と焼き魚と豆腐です」
「えっ。なんか朝ごはんみたいじゃない?センスない」
「も、申し訳ございません。作り直しましょうか」
『僕の機嫌を損ねるな』というのは少年の23番目の願いだ。
「うーん、いいよっ!あくまさんの料理おいしいもん」
「ありがとうございます」
うううかわいい。どんな扱いを受けてもこの顔を見ると許せてしまう。
「あっ、それでね、トイレの掃除が甘いと思うんだけど」
「はい。すぐに掃除し直します」
『毎日家をピカピカにしてほしいな』というのは少年の3番目の願いだ。
「ご飯作ってからね。トイレ掃除した手で作ったご飯なんて食べたくないしー」
「承知しました」
俺は深々と頭を下げ、少年の部屋を後にした。
料理、掃除、洗濯、ゴミ出し、皿洗い。まあつまりこの家の家事全般は俺の仕事だ。
仕方ない。これは契約なんだから。
それに、あの少年の!嬉しそうな顔を見るだけで!俺は満足だ!
「馬鹿者!何をやっとるんじゃあ!」
「はっ。この声は…」
せっせと夕食を作る俺の前に、恐ろしい姿をした悪魔が現れた。この悪魔は俺の上司だ。
「ちょっと、こっち来んかい」
「で、でも、夕食の準備の途中で」
「いいから!はよ!」
上司に手をとられ、時空の割れ目から悪魔の世界へ引きずりこまれた。
上司は厳しい口調で俺を問い詰める。
「おい、悪魔043号。お前の仕事は?」
「えー、ご飯の準備と掃除と」
「違ーう!あの少年の寿命をもらうことじゃろうが!お前、すっかり忘れやがってえ」
「忘れてませんよ!そのためにせっせと願いを叶えているんじゃないですか」
「叶えすぎじゃ!なんじゃあ100回願いを叶えるって。そういうのは断れといつも言っとるだろうが」
「し、しかし、あの子とても可愛いんですよ。なんでもしてあげたくなっちゃって」
「うるさいうるさい!…まあ、過ぎたことはもうよい。それよりお前、気づいとるだろうの?」
「何ですか?」
上司は悪魔らしくにたーっと笑った。
「次の願いで、100回目じゃ」
「!!!」
「お前、途中から願い事数えとらんかったじゃろ。わしが代わりに数えてやっとったんだぞ。感謝せい」
「次で、100回目…」
「それを叶えたら、あの少年の寿命、必ずもらうんじゃよ。わかったな」
「次で……」
「おーい。話聞いとるか?あの少年の、寿命を」
上司の声が次第に遠ざかっていく。
そして気づいたら、もとの台所に立っていた。
「次で……」
「ねえ、あくまさん。ご飯まだ?」
いつのまにか少年が後ろに立っていた。少年は俺の肩に顎をのせ、キッチンを覗いている。
「…ほあっ?!はい。もうできます!もうできるんで、ちょっ……とだけ待ってください」
「ふーん…」
『ご飯まだ?を2回以上言わせるな』というのは少年の32番目の願いだ。
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