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翠と碧(4)
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家に帰ると、碧は相変わらずベッドの中にいた。よっぽど具合が悪いみたいだ。
「ただいまー」
「おかえり…どうだった?」
碧はベッドから体を起こし、とろんとした目で僕を見た。
「えーっと…出席日数に関してはオッケーだよ」
「あ、そう。よかった」
何が、『あ、そう』だ!まるでひとごとみたいに!
思わず碧を睨むと、碧は不機嫌そうな顔になった。
「何?お礼のプリンならちゃんと渡すから…」
「僕のファーストキスが奪われました」
「…は?」
「名前も知らない男の先輩に奪われました!」
碧は一瞬きょとんとした顔をしたと思ったら、ぷっと吹き出した。
「そりゃ災難だったな」
「な…何それー!碧のせいだよ?碧が学校でセフレなんて作るから」
「はいはい。悪かったな。奪われるのはファーストキスだけで済んだのか?」
「済んだよ!!…あ、それがさー、変な子どもが助けにきたんだよ」
「…変な子ども?」
碧の表情が、すっと険しくなった。
「うん。小学生くらい?変なしゃべり方」
「バレた?俺じゃないって」
「いや、その子さー、いくら僕が碧じゃないって言っても全然信じてくれなくて」
「あいつの目は節穴かよ…」
碧はぼそっと呟いた。
「そういえば、薬の供給ルートが途絶えたとか言ってたよ」
「は…」
「あの子すごいもじもじしてたけど、大事なことだったの?」
「……まあ」
碧が舌打ちしている。
よくわかんないけど大変そうだなあ。
「……他は?なんか変わったことなかった?」
「うーん…」
吉野くんのこと、話したら怒られるかな。
「何?なんかあったの?」
「あ…うん…」
碧に睨まれ、急いで話し始める。
「吉野くんって子としゃべったよ。なんか変な反応だったけど…」
「吉野?あいつはさすがに俺じゃないって気づいたんじゃ」
「いやぁ全然」
「あいつら俺の何を見てるんだよ…」
碧はため息をついた。
「あっ、でもでもー、セフレの人には気付かれそうになったよ。よかったね!」
「は?何が?」
「気付かれなくてショックなのかなーって思ったから」
「うざいお前」
なんかさっきよりも碧が怒っている気がする。難儀なやつだなー。
「吉野くん、やけにびくびくしてたんだけど、碧何かしたの?」
「別に。告白してきたから断っただけ」
「こくはく…どうして断ったの?」
「それ聞くか?男同士で付き合うとか、気持ち悪いだろ」
「男のセフレがいる人がよく言う…」
「あれは仕方なくだ」
吉野くん、やっぱり碧のことが好きなんだ。それでフラれてびくびくして、話しかけられただけで嬉しそうにして…あはは、面白い。
「あのー、実は、吉野くんに電話番号教えちゃって」
「…は?」
「碧のって言って僕の教えたの。学校で何か聞かれたら、話を合わせておいてくれない?」
「はあ?何それ、めんどくさい」
「僕碧のために学校行ってあげたんだし、それくらいいいでしょ?お願い!」
「だめだ。それはプリンでチャラだ。どうして教えたのか知らないけど、自分は碧じゃないってちゃんと説明しとけ。吉野なら別に、入れ替わって出席してたのバレてもいいから」
「あー、うん…」
正論だ。でも吉野くんは、碧の連絡先だと思ったから、あんなに喜んだんだよなぁ…。
「絶対訂正しとけよ。俺、吉野とは会話する気ないからな」
「うん…わかったよ」
「じゃあ、もう出てけ」
碧はそう言ってふらふらと立ち上がった。
「どうしたの?寝てた方がいいんじゃ」
「野暮用」
碧は上着をつかみ、今にも倒れそうな様子で部屋を出て行った。
自分の部屋に戻って、ふっとため息をついた。
碧と俺は双子だけど、別の人間だ。違うところもあれば同じところもあるし、比べるものじゃない。
でも、やっぱり、碧には勝てないなと、時折考えてしまう。顔は同じなのに…。
カバンをどさっと置いて、スマホを見ると、知らない番号からメールが来ていた。
『吉野です』
吉野くんだ!!!
急いでメールを開くと、意外とシンプルな文面だった。
『番号教えてくれてありがとう。もう二度としゃべってくれないと思ってたから、すごく嬉しいです』
いい子だー!健気だー!
碧はどうしてこんないい子のこと嫌いなんだろう?
正体を明かすなんて、できないよ!吉野くんがかわいそう!
碧の言葉は無視することにした。
『土曜日、12時に駅前集合で』
うわー!送っちゃったー!唐突にデートに誘っちゃったー!
わくわくしながら返事を待っていたら、少し経ってから返ってきた。
『わかりました!』
あははー、僕、何やってるんだろう。
でも土曜日が、びっくりするくらい楽しみだ。
吉野くんのこと、いっぱい喜ばせてみたいなー。
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