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吉野の恋人(4)
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紹介してくれないかな〜なんて思いながら、僕はふらふらと翠くんが通っているという高校に来ていた。
僕ってやっぱストーカー気質なのかな。
まあ、いいよね。ちょっと校門で待ち伏せるくらい。
そわそわしながら待っていると、ほどなくして碧くんと同じ顔の人が1人で歩いてくるのが見えた。
あれが翠くんだな。
…え!どうしよう!「碧くんとお付き合いしてます」って言っていいの?だめだよなー!碧くん怒るよなー!話しかける理由、見つからないなー!
結局何も思いつかないまま突っ立っていることになってしまった。
しかし、ちょうど僕の近くまで翠くんが歩いてきた時、翠くんはふと顔を上げ、僕と思いっきり目が合った。
「……えっ」
翠くんは一瞬固まり、すぐに目をそらして早歩きで立ち去ろうとした。
「ま、待って!あの…待って!」
僕の呼びかけが聞こえているはずなのに、全く振り返らずにすたすた歩いていく。
この反応、絶対僕のこと知ってるよね?
碧くんもしかして、僕のこと話してるのかな、か、彼氏って…。
「翠くん、だよね?はじめまして。僕、碧くんの…その…友達の、吉野っていうんですけど…」
なんとか隣まで追いつき、必死に話しかけていると、翠くんはうつむいて答えた。
「人違いです」
「い、いや!いやいや!それは厳しいよ!だって同じ顔だもん碧くんと!絶対双子だよ!」
「急いでるんで…」
「あっ、待って待って!」
翠くんはついに走って逃げ出した。
ここで追いかけたら通報されかねないな〜とは思うけど、逃げられると追いたくなってしまう。
幸い翠くんはさほど運動が得意ではないらしく、住宅街の真ん中で力尽き、1軒の家の前で立ち止まった。
「はあ…君…何なの…?」
息切れしてる翠くん、なんだかセクシーだ…って、こんなこと考えちゃだめかぁ。
「翠くんとお話ししてみたくて」
「え…?それだけであんなに追いかけてきたの?怖い」
「翠くんこそ、どうして逃げるの?僕のこと知ってるんだよね?」
「し、知ってるって…?」
「てっきり碧くんが自分の彼氏って紹介してるのかと思ってた」
「あー…えっと…」
翠くんはなぜか周りをきょろきょろ見まわし、後ろの家の玄関を開けた。
「とりあえず、中入って…」
「…へあっ?!ここ、碧くんの家なの?うわああ!今日碧くんいる?学校来てなかったみたいなんだけどー」
「今日はこの辺パトロールしてるから帰ってこないよ」
「パトロール?何それ?」
「い、いいから。早く入って」
翠くんに腕をぐいっと引かれ、僕は無理矢理家に上がることになった。
「お、おじゃまします…」
碧くんの家だぁぁ!
いたって普通の家だ!
全ての神様に感謝して息を吸い込んでいたら、いつのまにか目の前に同い年くらいの男の子が立っていた。メロンパンの甘い匂いがする。
「…誰?」
思わずそうつぶやくと、男の子は淡々と答えた。
「僕はサイムだよ」
「えっ?サイム?変わった名前…」
「ごめんサイム、メロンパン1年分あげるからお出かけしてきてくれない?」
「わーい!」
サイムくんは大量のメロンパンを両手に抱えて、ばたばたと外へ出て行った。
なんだか同い年の言動には見えないな…。
「翠くん今のって…」
「そんなことより、僕に用でもあるの?碧について?」
翠くんはサイムくんに関して一切説明してくれないらしい。
「うーん、立ち話もなんだし翠くんの部屋に行こうよ」
「うん?吉野くん思ったより図々しいね」
そうは言いつつも翠くんは部屋へ案内してくれた。
翠くんの部屋はなんだか甘い匂いがする。
芳香剤とかじゃなくて、なんというか、カラメルみたいな匂い。
「…あ、わかった!」
「はい、吉野くん」
「プリンの匂い!この部屋プリンの匂いがします!」
「正解!僕は毎日ここでプリンを食べているよ!」
「へー!そういえば、碧くんもプリン好きって言ってたなあ。やっぱ双子は似るんだね」
「あ……うん…」
プリンで一時的に上昇した翠くんのテンションが露骨に下がった。何でだろう?
無言になりそうなのが嫌で、慌てて話を続ける。
「あの…それで…僕、碧くんと付き合ってるんだけど」
「そうらしいね」
「碧くんのこと、もっと知りたくて。おうちだとどんな感じなの?」
「そんなに変わらないよ。自分勝手で、口が悪くて、たまにとんでもないことをする」
「あはは、そうなんだー」
…キスについては、さすがに翠くんには聞けないなぁ。
「吉野くんは、どこが好きで付き合ってるの?顔?」
「えっ!い、いや、たしかにすごくかっこいいけど、それだけじゃないよ」
「ふーん…」
な、なんか妙に冷めた態度だ。テキトーな理由で付き合うなって思ってるのかな。
「付き合うまでは、ミステリアスな雰囲気が気になって、なんというか、お近づきになりたいって感じだったけど」
「ミステリアス…?」
翠くんは首を傾げている。
まあたしかに、家族に対してミステリアスとか思わないか。
「でも付き合ってから、どんどん好きなところが増えてるんだ!冷たそうに見えるけど、案外面倒見がいいし、話してると楽しいし、この前プリン食べてたときの無邪気な笑顔、きゅんとしちゃった……って、僕何言ってんだ翠くんの前で」
「………」
「す、翠くん?」
何もしゃべらない翠くんが気になって顔を覗きこむと、翠くんの目からぽろっと涙がこぼれた。
「えっ…な、何で?どうしたの?」
「ごめん、吉野くん…」
翠くんは僕の胸に顔をうずめた。思わず抱きしめると、翠くんの体が震えているのを感じた。
「たぶんそろそろ限界なんだ。でも、どうしたらいいかわからない」
「うん…?」
「………」
その時、部屋の扉がノックされる音が響いた。
「翠?帰ってるのか?」
碧くんの声だ!
こ、この状況、どうやって説明すればいいんだ?!
翠くんは気づいているのかいないのか、全く動こうとしない。
「さっき外でサイムと会ったから、急いで連れ戻してきたんだけど…お前が外に出したのか?1人で出歩かせるなって言ったよな?…おい、聞いてる?」
ついに、碧くんがドアを開けた。
僕と目が合って、驚いた様子で尋ねてきた。
「はあ?吉野?お前ら何やってんの?」
「あ、碧くん!いや、その、これは…」
「吉野くんは僕と付き合ってるんだ」
「え?」
僕と碧くんの声がハモった。
翠くんは僕の体から離れ、碧くんを見据える。
「サイムのことは、ごめん。でも碧も心配しすぎだよ。子どもじゃないんだし」
「あ、ああ…。それよりお前らって、何か接点あったっけ?いつから付き合ってるの?」
「少し前。碧のふりして学校行ったころから」
「へー。結局ちゃんと訂正したのか」
話が見えない。
でも、なんだか内臓がぞわっとするような嫌な予感がする。
「まあ、お互い全然おすすめはしないけど、お好きにどうぞ」
「うん」
「あと、サイムは見た目は大きいけど中身は子どもだから。今日は許すけど、今後は1人で外に出すなよ」
「わかった。ごめん」
碧くんはパタンと扉を閉めて出て行った。
翠くんは何も話してくれない。
翠くんに聞きたいことが、頭の中でぐるぐる回っている。そしてその内の1つが、口をついて出た。
「翠くん、僕たち、付き合ってないよね?初対面だよね?」
「…付き合ってるよ」
翠くんの薄茶色の瞳が僕をまっすぐとらえている。
「吉野くんが碧くんだと思ってたのは、全部僕だよ」
「え……」
「騙してごめんね」
連絡先を教えてくれたのも、デートしてくれたのも、キスをしたのも、好きって言ってくれたのも、全部翠くんだったってこと…?
「なんで?そんなことを」
「吉野くんを喜ばせたかった」
「たしかにまんまと喜んだ」
でも僕、馬鹿みたいだ。好きな人が他の人と入れ替わってるのに、何も気づかず浮かれていたなんて。
「えっと…今までありがとう。じゃあ僕、帰るね」
「待って!」
一応お礼を言って立ち上がろうとしたら、呼び止められた。
「これからも、このままじゃだめ?」
「え…?」
「僕、ずっと碧みたいにするから、今まで通り、恋人同士でいてほしい。碧だと思って、付き合ってほしい」
翠くんは僕の手をそっと握った。なんだか気味が悪くて、振り払いたくなる。
翠くんが、何を考えているのかさっぱりわからない。
「そんなの無理だよ」
「どうせ、僕と碧の区別つかないんでしょ?」
「つ、つくもん!」
「お願い。…1ヶ月だけで、いいから」
「1ヶ月…」
翠くんはついに頭を下げた。碧くんと同じ顔で、碧くんなら絶対にしないことをしている。
1ヶ月くらいならいいかな、と一瞬思ってしまった。
「じゃあ、碧には内緒でね」
「あっ、ちょっと!」
反論する隙を奪われ、そのまま家から追い出された。
翌日、学校に行くと、自分の席に碧くんが座っていた。
隣のクラスのイケメンがなぜかいる、ということでクラスがざわざわしている。
「お、おはよう…碧くん?」
おそるおそる声をかけると、碧くんは無表情で僕を見上げた。
「おはよう」
「えっと…どうしてここにいるの?」
「翠から話を聞いた」
「あ、そ、そうなんだ。あの…変なことになっちゃって、ごめん。碧くんには迷惑かけないから…」
「ほら、やっぱり」
「えっ?」
碧くんは椅子から立ち上がり、僕の耳元で囁いた。
「区別、つかないんじゃん」
「なっ……」
碧くんはクスッと笑って教室から去っていった。
「よう吉野。お前本当に三崎と付き合ってたんだな」
酒井がのんきな口調で近づいてきた。
「わからない…」
「ん?」
「どうせ僕は、本質が見えない人間なんだよ…」
「お、なんか悩んでるな。よしおを呼ぶか。よしおー!」
もう、いいや。
本人がああ言ってるんだし、碧くんだと思って楽しく付き合ってしまおう。
「お呼びですか?持ち前の察しの良さで全て察してあげましょうか?」
「良くないから!よしおくん、全然察してなかったからな!!」
「そ、そんなぁ…」
「あー、吉野がよしお泣かせたー」
「うるさいうるさい!」
おわり
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