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迷走中(2)
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どうして碧くんのフリをするの?
どんなにフリをしたって、君は翠くんなのに。
そんなの、わかってる。
でも僕は碧になりたい。
一卵性の双子なのに、どうして僕と碧は違うんだろう。生まれたときも育った場所も、DNAだって全部同じなのに、どうして。
家を出た後、そんなどうにもならないことを考えながらとぼとぼ歩いていた。
「おい!危ないぞ!」
「え…?」
突然怒鳴り声が聞こえ、我にかえった。前を見たら、いかつい車が猛スピードでぶつかってこようとしていた。
「…ああ、ここで死ぬのかぁ」
「おい!!」
ぶつかりそうになった瞬間、強い力で横から引っ張られ、道の脇に倒れこんだ。
「いたたた…」
「いたたたじゃないぞ!お前、どうして全然避けようとしんのじゃ!」
「ん…?」
聞き覚えのある声のような気がして、怒鳴っていた人の顔をまともに見てみた。
小学生くらいのぷっくりした男の子だ。この子、見たことあるなあ。えーとたしか…
「…あ、碧の知り合いの子かぁ」
「な、なにぃ!わしのこと忘れとったんか!わしは覚えとるぞ!お前、スイじゃろ!アオイのクローンのスイ!わしもう理解したもんね!」
男の子は得意げに腕を組んだ。
…クローンて、言い方ひどくない?
「えーっと君は…なんて呼べばいいの?」
「わしか?今の正式名称は14号じゃけど、人間に番号で呼ばれるのはなんか癪じゃからの。リシでいいぞ」
「リシくん?変わった名前だねー」
「悪魔じゃから、人間の名前とは多少違っとるかもしれんの。魔王がつけた名前らしいんじゃけど」
「悪魔って何?」
僕がそう聞くと、リシくんは目を見開いた。
「えええっ!お前知らんのか!碧のクローンなのに」
「知らない。リシくん人間じゃないの?」
「そうじゃ。悪魔は悪魔の世界に住んどってな、人間の願いを叶えるかわりに残りの寿命をもらうのが仕事なんじゃ」
「ふーん。もうかってるの?」
「そんなんどうでもええじゃろ…って、あれじゃな。初めて悪魔を見た割には反応が薄いの。もっとびっくりしんのか?」
「まあ…リシくんにあんまり興味ないし」
「なっ、何をう!」
リシくんは地団駄を踏んでいる。
よく考えたら、エクソシストがいるなら悪魔もいるのが当然だよなぁ。碧は何と戦ってるんだって話になるし。
しばらく地面を踏みならした後、リシくんは怒りを忘れてしまったのかけろっとした様子で聞いてきた。
「ところでスイは、今からどこに行くんじゃ?わしは今アオイを探しとるんじゃけど」
「アオイは今日はこの辺でうろうろしてるよ。でももうすぐ家に帰るんじゃないかな」
「お、そうか!じゃあわしを家に連れて行くんじゃ!」
「あー…やだ」
「な、なんでじゃ!わし、怪しいもんじゃないぞ!」
「いや、僕が…あんまり帰りたくなくて」
「ん?アオイとケンカでもしたんか?」
「んー別に…」
「じゃあなんじゃ。わしにできることじゃったら協力するぞ。わしには人間の願いを叶える力があるからの!」
「どうして協力してくれるの?」
「アオイに会いたいからじゃ」
即答された。
この子はアオイによっぽど懐いてるんだなあ…。
「…じゃあ、僕のお願い聞いてくれる?寿命取られちゃうのは困るけど」
「いいぞ。特別に寿命は2割で許してやるぞ」
「僕、碧になりたいんだ」
「…ほえ?」
リシくんはぽかんとした顔で首を傾げた。
「お前、そんなアオイそっくりな顔して何言っとるんじゃ。ほくろの位置までお揃いにしたいんか?」
「顔じゃなくて、見た目も中身も碧になりたい」
「んん…?よく意味がわからんのじゃけど。中身がアオイになるってどういうことじゃ?中身がアオイで見た目もアオイって、それまんまアオイじゃろ。お前はどこにおるんじゃ?死ぬの?」
「とにかく碧になりたいの。僕がどこにいるとか、細かいこと聞かれてもわかんないよ」
「なんじゃもう…わけのわからんやつじゃなお前は。結局お前は何がしたいんじゃ。なんでそんなにアオイになりたいんじゃ」
僕が何をしたいのか。
「僕の…好きな子が、碧のことを好きなんだ。だから、碧になりたいんだ」
そうだ、僕は吉野くんが好きなんだ。
言葉にして、やっと気付いた。
「じゃあお前は、見た目も中身も碧になって、そいつに好かれたら満足なんか?」
「満足…だよ」
「嘘じゃろ」
リシくんの目がすっと細くなった。
「お前は逃げとるだけじゃ」
「え…?」
「…………ふおっ?!」
突然リシくんがビクッと動いて驚いたような顔をした。
「わし、今なんかかっこいいこと言っとらんかった?」
「言ってたっぽいけどその一言で台無しだね」
「うるさいわい。で、なんじゃっけ?」
「……吉野くんのことが、好きなんだ。」
「ふむ。恋というやつじゃな。それ系はわし苦手じゃよ!」
「僕も苦手だよ。自分勝手な人間には向いてないんだよ」
「…ん?わし今…けなされた?」
「失礼するぞ」
何もないところから、急に男の子が現れた。ぱっと見て普通の中学生のようだけど、なんというか…雰囲気が異様だ。リシくんの仲間の悪魔だろうか?
「誰これ…」
なんとなく不安になってリシくんを見ると、リシくんは能天気ににこにこしながら手を振った。
「おー!お前、魔王の息子じゃろ!大きくなったのー」
「14号、そこで何をしている」
咎めるように言われて、リシくんは不満げな顔になった。
「なんじゃあ、いくら魔王の息子だからって、悪魔としてはわしが先輩じゃろ?もっと敬意を持って話さんかい」
「俺は魔王の命令でエクソシストを捕まえに来た。お前、エクソシストと通じているらしいな。どういうつもりだ?」
エクソシスト…碧を捕まえに来たのか、この悪魔?は。
なんだ、結局碧だ。みんな碧に用事がある。
同じ顔で能力が高い人と低い人がいれば、そりゃ高い方が選ばれる。2人も必要ない。
リシくんたちはわいわい話し合ってるけど、僕の耳には全然入ってこない。
そして気づいたら、悪魔が僕のすぐそばにいた。
悪魔はじろじろと僕を見ている。何をしようとしてるのかよくわからないけど、逃げる気があまり湧いてこない。
やがて僕のひたいに手を伸ばしてきた。リシくんが止めようとしてくれたけど、すぐにやっつけられてしまった。
リシくん、弱いんだな。
いや、もしかしてこの悪魔が強いのかな?
ぼーっと悪魔を眺めていたら、怪訝そうな顔をされた。
「お前、抵抗しないのか?」
「うん。しない。君は何をしに来たの?」
「お前を捕まえに来た。悪魔の世界に連れて行き、エクソシストに関する情報を吐いてもらう。逆らえば殺す」
「なるほど」
碧の身内だからって、エクソシストのことなんて僕なんにも知らないんだけどな。
…でも、このまま家に帰って碧や吉野くんと鉢合わせするよりは、この悪魔についていく方が面白そうだ。
目を閉じると、全身の感覚を頭の上から抜かれたような感じがして、僕は意識を失った。
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