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エピローグ→ユキの場合(2)
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言われた通り風呂に入り、寝室へ行くと、兄は布団をかぶって目を閉じていた。
「兄ちゃん」
呼びかけても返事がない。でも、兄は絶対寝ていない。僕がそう望んでいるとわかってるから、兄は先に眠れない。
兄の隣に横になり、布団の上から抱きついた。
「僕と、ずっとずーっと一緒にいて、守ってくれるよね?」
「………」
「ねえ兄ちゃん」
「…ユキはそれでいいのか?」
「えっ?」
兄はぴくりとも動かずに呟いた。
「ユキは誰かに依存しないと生きていけない。だからあいつの代わりに保護者になって、守らなくちゃいけないと思った」
「…あいつって誰?」
全く意味がわからないのに、突拍子もない感じはしない。もしかして兄は、俺が忘れた大切なものを知ってるんだろうか。
「俺は一生ユキのことを守ってやれるよ。でもユキの人生は、本当にそれでいいのか?」
「兄ちゃん」
僕は兄の布団に潜り込み、背中にくっついた。
体温の低い兄の背中はひんやりとしている。
「兄ちゃんは好きなように生きればいいんだよ」
「え…?」
「僕は兄ちゃんに全力で依存するけど、それを受け入れるのも拒否するのも兄ちゃんの自由」
「…俺の人生は、ユキを守るために生まれた」
「大げさだな〜。兄ちゃんは僕より先に生まれたんだから、そんなわけないじゃん」
「………」
今日の兄は様子がおかしい。何か言いたいことを我慢して、遠回しなことばかり言っているような気がする。
「…俺は、好きなように生きていいのか?」
「いいよ。まあ僕としては、今のまま僕のこと養ってほし……んっ?!」
兄は布団の中でぐるんと体勢を変え、正面から僕を抱きしめた。
「に、兄ちゃん?」
「今思うと、俺は嘘をついてたんだな。お父さんの前でも、自分に対しても」
ひとりごとみたいな調子で、兄はぶつぶつと呟いている。
「あいつの代わりにユキを守りたかったんじゃない。あいつがいなくなったから、俺がユキの1番に戻れると思ったんだ。俺がなりたかったのは兄じゃない…」
「マオ…くん…」
さっきみたいなわざとじゃなく、兄の下の名前が口をついて出た。
だけど兄は咎めない。
「ユキが好きだ。ひどいことをされたけど、俺にはユキしかいない」
兄はより強く僕を抱きしめた。どんなにもがいても離してくれないんじゃないかというほど。
「兄ちゃん、さっきから変なことばっかり言ってるよ。眠くておかしくなってるんじゃない?」
「………そうだな」
兄の腕の力が少し和らいだ。その隙に腕から抜け出し、一息つく。
「僕も兄ちゃんのこと、大好きだよ!お兄ちゃんの代わりはどこにもいない」
僕がそう言うと、兄はなぜか怯えたような表情を浮かべた。
「兄ちゃん?」
「もう、捨てないでください」
「…え?」
「俺を1人にしないでください。あなたがいなくなったら、俺は何をしたらいいかわからないんです」
兄は目に涙を浮かべ、僕にすがりついた。
「兄ちゃん!落ち着いてよ!」
「怖いんです。どんなに俺を頼っていても、あいつのことを思い出したら、あっさりそっちへ行ってしまうんでしょう?」
「ねぇ…僕やっぱり何か、忘れてることがあるの?ずっと違和感を感じてたんだけど…」
「………」
僕が尋ねると、兄ははっとした顔をして、布団を頭からかぶった。
「…なんでもない。疲れてて、変なことを言ってしまっただけだ」
「でも…」
「おやすみ」
そう言って兄は僕のことを完全にシャットアウトしてしまった。
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