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俯きながら泣く僕を、マスターは慰めることをせず、何も言わずに黙っている。
「梓くんは寂しい?」
「えっ」
この人には、透視の能力があるのではと思うほどだ。
咄嗟に頭を上げて、彼の方を見た。
中分けにしている黒い前髪が目にかかり、そこから覗く鋭い瞳に
目が離せなくなっていた。
だめだ、だめだよ。
言っちゃだめだ。
言ってしまうと何かが変わるかもしれない。
しかし、頭からの指令を無視した唇は、
心にかかった理性というフィルターよりも奥の奥の方の本心を見抜いた。
「寂しい、です。」
独り言のように呟いた。
彼の目を見つめながら。
途端にぐいと腕を引かれ、マスターに抱きしめられる。
いつもは微かに香るムスクの香りが今は強く香る。
心拍が聞こえる。
思ったより厚い胸や逞しい腕たちに包まれる。
全てが僕の理性を壊そうとしていた。
「1人じゃなくてもいいんじゃないかな?」
極め付けのセリフだ。
「今の梓くんは、最低だって思う?」
「えっ、、」
「俺が言ってること、最低だって思う?」
普段と違う、マスターの喋り方、声の低さに
何かが崩れる音がした。
体が疼いた。
この腕に抱かれなさいと言われているような気がした。
「思わない、です。」
熱に浮かされ震えた声で、
でも、ちゃんと彼の目を捉えながら。
マスターが微笑んで僕の頬に手を乗せる。
「っん」
顔が近づき、2人の距離は0になった。
「帰る準備をしよう。私の家においで。」
そう言って部屋を出たマスター。
僕は一件、電話をかける。
相手は隆平さんだ。
7コール鳴りやっと出た。
「もしもし、」
「僕のこと愛してますか。」
「急にどうしたんだ。今仕事中だ。
30分くらいなら出れるが「愛してる?」」
「どうしたんだ。」
「、、、やっぱりいい。お休みなさい」
彼は必要最低限の言葉しか言わない。
好きだよも愛してるも僕が言った時におうむ返しで返ってくるだけだ。
やっぱり寂しいと感じた僕は、マスターの元へ向かった。
手を繋ぎ、早足で
マスターの車に乗り込み、家へと向かう。
その間の沈黙はいつも経験しているものとは違い、官能的で体が火照ってくるのがわかるほどだった。
隆平さんを裏切る瞬間が来てしまった。
今の僕は強気だった。
寂しい思いをさせた隆平さんが悪い、と
そう思っている。
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