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tears【涙】
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「…高校って、例の海京学園…だよな?」
そう尋ねると、多田は「そうです。高三の時に、カフェをやって……とても楽しかったですね」と小さく呟いた。
「楽しかった」と口にしているのに多田の表情は悲しみを含んでいるように感じられて、俺は複雑な気持ちになる。
「男子校の学祭とか、想像つかねえな。俺は共学だったから、全然分かんないわ」
ああそっか。多田は男子校出身だったんだ。しかも知らない人はいない程有名で優秀な学校なんだった。
囲われた世界での生活は多田にとってどのような生活で、何をもたらしたのだろうか。
「やっていることは恐らく共学も男子校も同じですよ。カフェをやったり、お化け屋敷をやったり…」
「確かに一緒だけど、実際目にしたら全然違うんだろうな…。やっぱり同性だけってのは、異様な雰囲気がありそうだし」
そう口にしてしまってから「あ、ヤバい、言い過ぎた」とハッとする。多田にとっては中高と六年間過ごしてきた海京学園での生活が「普通」なのに、それが多田の世界を遍く作り上げてきたと言うのに、あたかも否定するかのような言葉を述べてしまったことに。
「……そう、ですよね…」
やっとのことで人だらけの大広間に到着した俺達は、気まずい雰囲気のまま互いにポツンと佇む。喧騒に包まれた空間であるのに、俺と多田の周りだけは静寂で包まれているかのようだ。
やっぱり多田とは住む世界が違い過ぎて、何を話したらいいのか分からない。だってこいつ、綺麗な世界しか見せられてこなかった感じがひしひしと伝わってくんだもん。それが多田を歪めて、苦しめてる感じがするんだよな…。
言葉を発した刹那、多田の目元がクシャ、っとほんの少し苦しそうに歪められたことにはすぐに気がついた。
普通なら確実に気付くことはないであろう微々たる表情の変化。けど俺は、あの入学式の時も、梅雨の季節に知り合いと歩いていた時も、多田の茶褐色の瞳が揺れ動いたことが分かった。
多田は感情を大きく表に出すことを恐れている。彼の内面にあるボロボロの心は、固く冷え切っているんじゃないだろうか…?
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