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[色松ラビリンス]おまけのLINE松じゃない色松
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カラ松と別れて赤塚区某所にあるにゃんにゃんパラダイス(ネコカフェ)から帰宅して約一時間後。
居間の定位置で膝を抱えて座る僕の前には、何とも言えない表情で卓袱台に向かって求人情報誌を捲るチョロ松兄さんと、同様に何とも言えない表情で携帯端末を弄るトド松が居る。
時折ちらちらと二人から視線を向けられるが、遊びに来た友達を構うのに集中させて貰う。何を言われても僕の答えは変わらないのだから、いい加減諦めて欲しい。
時は約一時間前まで遡り、カラ松の期待を背負ってスキップしながら囮作戦を実行したからか、案の定家の中に入って早々に、僕は後から来たチョロ松兄さんとトド松に詰め寄られる羽目になった。しかし何を訊かれても、「分裂しただけだけど? 何か試したら出来た……」――と、電波極まりない台詞を繰り返したら、それ以上は問い詰められることはなかった。
でも真相究明を諦めた訳ではないようだから、今夜にでも兄弟達が揃った状態で六つ子会議が開かれるのは先ず間違いないだろう。考えただけで面倒臭くて気が重くなる。
胸中でこっそり溜め息を吐き出し、仕方がなかったとは言え独り残して来てしまったカラ松のことに思考を移す。
ちゃちゃっと小洒落た服に着替えて茶髪のウィッグを被ったカラ松をトイレから出る前に見たが、僕の格好をしていた時もそうだけど、その変わり映えは見事なものだった。
服装はともかくとして、顔付きまでああも変えられるのは、流石元演劇部のエースだなと改めて感心した。カラちゅんマジで神。
普段の痛松仕様も嫌いではないが、素のカラ松の良さは筆舌に尽くし難いので割愛する。強いて言えば、最早チートレベルに値する万能性を持っているのではないかとだけ言っておこうか。
対する素の僕はまあ普段と変わらずゴミなんだけど、闇松(ゴミ)から薄暗松(ゴミ)くらいに表に出るネガティブ成分が薄れたといった感じだと言えば分かりやすいかな……。
だからと言って痛松仕様のカラ松に普段厳しめなのは、別に演技とかではなく条件反射に近い。イラッとくるものはイラッとくる。
拗らせどうこうじゃなくてさ、カッコいいんだけど見てると胸の奥底というか、腹の底から沸き上がる衝動が抑えられなくて暴走すんだよね。とてもふしぎ。
遣り過ぎればカラ松からLINEでお呼びがかかって拳骨落とされて叱られるし、その時のカラ松は普通におっかない兄さんだ。でもおっかないのはその時だけで、毎回素直に謝ると笑顔で許してくれるとかほんともう神! カラ松最高かよ! 神レベルカンストしてるだろふざけんな逆に死ぬ!!
僕は死ぬまでカラ松Boysとして生きるからカラ松居ない世界とか考えられないしクズニートでブラコンかよとか寧ろ褒め言葉だし生きるのが辛いいや楽しいここは桃源郷か――嗚呼……カラ松カラ松カラ松カラ松カラ松カラ松マイゴッド!!!!!!
――――で、何だっけ。
ああそうだ、素のカラ松は尊いに違いないんだけど、痛松時も僕と同じで別に演技ではない。カラ松の理想とするオザキみたいな最高にカッコいい漢を追求した結果があれだ。
言ってしまえばあれもカラ松の素の一部なんだろうなあ――色んな意味でカラ松は凄い。僕には真似出来ないというより、烏滸がましくてそんな気も起きない。
チョロ松兄さんとトド松の反応を見れば察しがつくだろうが、他の兄弟達は僕達二人がかなり良好な関係にあることを知らない。
一度反抗期で仲が拗れて以来、カラ松に対してだけ僕が一方的に当たりを強めたままだと思っている。
というか当時の反抗期のそれにしたって、カラ松のお陰で直ぐに関係は修復されていたのだ。
崩れた豆腐メンタルで鬱屈と不登校生活を送っていた僕に罵倒され殴られ無視されても、六つ子の中で早々と反抗期をイチ抜けしていたカラ松だけは毎日毎日飽きもせずに声をかけてくれ、何かとメールや画像を送って寄越し、素晴らしい兄貴力を発揮し続けてくれた。
カラ松が頻繁に送って寄越す猫画像を見るのが楽しみになっていたのは言うまでもなく、そんな最中に送り付けられたある自撮り動画――歌って踊ってみた系だった――によって、腹筋の崩壊と共に僕の目は覚めた。
あれは本当に酷かった……良い意味で。
カラ松には敵わないんだと悟った当時の僕は、後日カラ松に土下座した。床に額を擦り付け平伏した。無駄にクオリティーの高い動画を思い出して泣き笑いながら。
最早ごめん寝の域で顔を押さえ腹を抱えて転がる僕を、カラ松は責めも引きもせずドヤ顔で許してくれた。反省しているならもういいぞってね。
流石僕の神様だ。いっそ激しく蔑んでくれていいのに。
何にせよ学生時代から既に存在が尊いとかやばすぎるなんだよほんとさいこうのぶらざーだなおまえはあああああああ!! どうなってんだそのやさしさ!!!
は~~~~ほんとカラ松尊い。崇めとこ。
「ただ今帰ったぜマイブラザー!」
現実逃避染みた回想は止めにして、胸中で尊き神を崇め奉ろうとしていた矢先、唐突に玄関から戸の開閉音と待ちに待った快活とした一声が聞こえた。
ああ……やっとカラ松が帰って来た。遅いよお前、何してたの。
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