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CAGE1:それは奇妙な巡り合わせ8
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洋side
朝から用意されたハムチーズトーストは味はいいが胃もたれしそうだった。
一緒に住み始めた日に作られたルール。
その中で立花が絶対に譲らなかった一つ、離れるときはハグをすること。
俺には理解出来ないこのルールを、立花は大切にしているようだ。
今でもこのルールの意味は分からないが、ルールはルール。
最近は割り切って自ら手を広げてみたりした。
立花は嬉しそうに懐に入ってくる。
その背中に腕を回すことはないが、それに関して立花は追及してこないので良しとしている。
外を歩けば白い息が出た。
11月下旬ともなれば気温は下がり、体を冷やすには十分だ。
着ている黒いコートのポケットに両手を突っ込む。
働き始めた「何でも屋」の事務所は歩いていける距離にある。
二十分弱の道のりも、適当に曲でも流していればあっという間だ。
見上げたビルは四階建てで古びている。
事務所がある四階以外は全てテナント募集中となっているため、人の気配が少ない。
エレベーターなんて大層なものは付いていないので、幅の狭い階段を上がっていく。
階段を上がりきると一枚のドア。
『何でも屋』の文字が並ぶ小さな看板が掛かっていて、怪しさが漂う。
最もすっかり見慣れてしまった光景に、俺は何も感じないが。
ドアに手をかけ、中へと入る。
「ーー三分遅刻だ。」
迎え入れたのは低い男の声だった。
思わず顔をしかめた。
「そんな顔してもダメ。遅刻は遅刻だ。」
声の主は部屋の奥に設置されたデスクに腰掛け、微笑みながら俺を見る。
何でも屋の所長ーー上月 颯(コウヅキ ハヤテ)は、俺の苦手とする人物だ。
いつも微笑んでいる表情は崩れたことがない。
立花も常に笑顔ではいるが、こいつはまた別の種である。
「倉橋くん、分かっているよね?あと一回でペナルティだからね。」
咎めていると言うよりは、ペナルティを楽しみにしていると言う口振りだ。
ちなみにペナルティはその日のこいつの気分で内容が決まるらしい。
全く傍迷惑だ。
ーーカチャッと食器の音がして、給湯室から一人の男が姿を見せた。
手には珈琲を乗せた盆が握られている。
「上月さん、珈琲。」
ぶっきらぼうに物を言うのは葉桜 啓介(ハザクラ ケイスケ)。
つり目な為か少々生意気そうな雰囲気を持つ。
その目が俺を視界に入れたようだ。
「……はよ。」
割りと礼儀はよく、挨拶は必ずしてくる。
「……どうも。」
俺は短く返すだけ。
葉桜はそのまま上月のデスクに近付き、淹れたての珈琲をそっと置いた。
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