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CAGE1:それは奇妙な巡り合わせ12
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「その時、顔が見られれば良かったんですけど…暗かったのと逃げるのに必死で確認できませんでした。」
話終えた雪見は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「…そんな顔、しなくていい。誰もお前を責め立てていない。」
「けど、こうしてご迷惑をお掛けしてしまっています…」
「仕事だ。気にすることじゃない。」
「……優しい方なんですね。印象とは少し違いました。あの、お名前教えていただいても良いですか?」
やっぱり可笑しな奴だ。
俺が優しいだなんて…絶対騙されやすいタイプだな。
「……倉橋、倉橋 洋。」
「倉橋さんですね。改めてよろしくお願いします。」
その表情は安心しきっていて、さっきまでの緊張感はない。
雪見は再び前を向いて歩き始めた。
華奢な身体は簡単に押さえ込めそうだ。
男が男にストーカー……ね。
世の中は理解できないことが多すぎる。
立花が働いていたバイト先の店長もまた然り。
別に訊いていないバイト先の話を立花はよくしていた。
薄々その店長が立花に好意があることは分かっていたが、立花が予定より早く帰宅してきたあの日。
俺になど目もくれず一目散に浴室に入り込んで、一向に出てくる気配がなかった。
何かあったことは明白で、それでも暫くは放っておいた。
一時間経っても出てくる様子は見えず、仕方なく浴室を覗いた。
中には服のまま座り込み、冷水を頭からかぶる立花の姿。
中に入ってきた俺に気付きもしない。
どうしたんだ?と言う言葉は飲み込んだ。
お互い詮索はしない。それはルールだ。
こいつが話さない限り、こちらから探りをいれるわけにはいかない。
言葉を掛けるのをやめてシャワーを止める。
そこでようやく立花の視線が上がり、俺を視界に入れたようだった。
お帰りなさいだなんて間抜けなことをぬかした顔はいつものようには笑えていなかった。
立ち上がり浴室から出た立花はキョロキョロと辺りを見渡す。
恐らくタオルでも探しているのだろう。
こんなことだろうと用意していたタオルを後ろから頭に掛けてやった。
その際に立花の首に赤い痕が垣間見えた。
季節外れのこの時期に蚊に喰われた訳でもあるまい。
それに俺は絶対にその痕を見間違ったりしない。
昔、嫌と言うほど見たキスマーク…。
聞かずとも知れた事情に短く息を吐き出した。
カタカタと小刻みに震えている背中に、一つの提案をした。
端的に言えば養ってやるから家事をしろと言うもの。
別に立花の為に言ったわけではない。
面倒だっただけだ。
毎回こうして騒ぎ立てられるのが。
最初は納得のいかない様子だった立花も今ではすっかり家事が板に着いた。
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