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CAGE1:それは奇妙な巡り合わせ17
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……この人は何にも興味を示さないくせして、見ていないようでちゃんと人を見ている。
きっと無意識なんだろうけれど。
「動揺なんて……」
「している。目に見える嘘なんてつかなくていい。」
確固たる自信をもって倉橋さんは言い切る。
どこからそんな自信が来るんですかと言い掛けて止めた。
放された手を自分の胸元に寄せて握りしめる。
「………怖かったんです。貴方が帰ってこないんじゃないかって。もうあのドアが開くことはないんじゃないかって思ったら、急に怖くなった。」
一度本音を口にすると、言葉は止まらなくなる。
「待てども待てども時間が過ぎるばかりで、会うことが叶わない。僕は、知っているんです。その怖さを。」
「………………」
「いつまでも、いつまでも待ち続ける怖さを。」
気付けば握り締めていた手は震えていた。
「……帰るに決まってる。」
「ぇ……」
「どんなに遅くなろうと俺が帰る場所はここだけだ。だから帰ってくるに決まってる。」
「……………」
「俺にはここ以外に居場所はない。」
それだけ言うと倉橋さんは再び食事を再開する。
ぶっきらぼうだけど真っ直ぐで、僕が一番欲しかった言葉。
この人は、本当に……自分が優しい人だとどうして理解しようとしないんだろうか。
「………あの!一つお願いがあるんです。」
「何だ?」
「携帯を、持ちたいです。貴方といつでも連絡が取れるように。」
嫌がると思った。
そんなもの必要ないと一刀両断されると思った。
それなのに、返答は分かったと了承するものだった。
僕は呆けたように本当ですか?と返す。
そうしたら倉橋さんは眉間にシワを寄せ、
「何だその顔……アンタが欲しいと言ったんだろう?」
「そ、そうですけど……まさかそんな返答がくると思わなくて。」
「……要らないなら買わないがな。」
「い、要ります!ぜひ!」
「……ふっ、分かったから。アンタがそうやって慌てるのは珍しい。」
倉橋さんが笑っている。
柔らかで朗らかな笑み。
嬉しくて、温かくて、胸がぎゅっと締め付けられる。
「けど悪くないな。もっと色んな表情を出せばいい。」
「………貴方も」
「………?」
「………いえ、何でもありません。」
倉橋さんも少しずつ変わってきている。
そのことに気付いているんでしょうか?
でもその片鱗が見えただけで、今は満足です。
「この煮物自信作なんです、いかがですか?」
「………味は悪くないが、組み合わせが微妙だな。」
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