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CAGE2:あの日の同罪ー立花 直ー15
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雪見くんの部屋の前。
僕はかれこれ10分ほど奮闘している。
「………おい、いつまでやってる気だ?」
ため息混じりの声に、身を縮める。
「うっ……何だか緊張してしまって……」
僕の指先はインターフォンに触れているものの、それを押し切る勇気が出ない。
子供の頃は虐められていたから、友人と呼べる人もいなく、こうして人を訪ねることに慣れていない。
「もし、もし雪見くんがコイツ誰だ?的な顔したらどうしましょう?」
「……アホか。」
倉橋さんは頭を抱え、重なる僕の指ごとインターフォンを押してしまった。
「わぁぁ!」
「……うるさい。」
「まだ心の準備が……」
なんて言っている間に目の前のドアが開き、雪見くんが顔を見せた。
僕の心配を他所に、その表情はパッと明るいものになった。
「お久しぶりです!もう体調は大丈夫なんですか?」
詰め寄るような勢いに僕は目を丸くして倉橋さんへ視線を投げる。
倉橋さんは目を細め、肩を竦めた。
「…はい、お陰様でもう大丈夫です。」
「良かったぁ…もし何かあったらって想像しただけで怖かったんですよ。でも、ありがとうございます。立花さんが居なかったら、僕死んでたかも。」
「そんな大層なことしたつもりはないですよ。」
大袈裟だと否定する僕に雪見くんは首を横に振る。
「立花さんは僕の命の恩人です。ありがとうございます。」
微笑まれた顔を見て、何故だが無性に泣きたくなった。
「立花さん?あの僕、変なこと言っちゃいました?」
「え……」
「何だか凄く泣きそうな顔してる……」
「違うんです。嬉しいんです……嬉しいのに何故だか泣きたいんです……。」
今まで味わったことがない感覚に戸惑う。
「それ、嬉し泣きってやつですか?」
「嬉し泣き…?」
「涙は必ずしも悲しいときに流すものではないんですよ。嬉しくて泣くときもあるんです。」
嬉し泣き……
そうか、そんな感情もあるのか。
僕は雪見くんの手を取り、両手で包んだ。
「助けられて、良かった。」
大切な人を無くしてしまったこの両手で、今度は確かに救うことが出来た。
頬に一筋、滴を感じた。
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