アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
CAGE3:少年の記憶と過ち8
-
「倉橋さんの言った通りちゃんと食べてくれました。」
空になった器を見せれば、そうかと興味無さげな返答がくる。
「それから名前、教えてもらえましたよ。暁斗くんって言うそうです。」
「………暁斗…」
「一応上月さんに連絡しておいた方が良いでしょうか?」
「…そうだな。俺からしておく。」
倉橋さんの目は本から離れることがなく、熱中しているようだ。
「それ、何を読んでいるんですか?」
器を片して、ソファーに並び倉橋さんの手元に目をやる。
本のタイトルは『クリスマスの夜に』と書かれていた。
倉橋さんらしからぬ恋愛小説か?と思いきや違うらしい。
「…ホラーミステリーだな。雪の中、ロッジに閉じ込められた男女がサンタクロースの格好をした殺人鬼に次々殺される。」
「面白いですか?」
「…どちらかと言えば陳腐な話だ。暇潰し程度だな。ただ……」
ちょうど読み終えたのか、倉橋さんは本を閉じ、深くソファーに沈み込んだ。
「……殺人描写はどうも読みきれない。リアルな表現をしようとしているものなら尚更。」
その気持ちは充分理解できる。
「…どんなにリアルな表現をしていても、そうじゃないと否定の心がある。まぁ、アンタもそうだと思うけどな。あの感触は、言い表せない。」
未だ手に残るあの感触。
それを忘れることは一生ない。
「そうですね…。」
思わず握り締めた手に、倉橋さんが自らの手を重ねてきた。
「……悪かった。余計なことを言った。」
「いいえ、大丈夫です。それよりもうすぐ12月ですし、クリスマス近いですね!その日は倉橋さんの好きなものを作りますので、考えておいてくださいね。」
「……クリスマスってそういうもんなのか?」
首を傾げる倉橋さんに、僕も首を傾げた。
「まぁ、そうですね…。一般的には…。ご馳走とケーキとプレゼントってイメージですよね。もしかして、クリスマスを知らない……とか?」
「………悪いか?そういった類いのものとは無縁だった。」
確かに少年院の中で、そう言った行事などあるわけがない。
僕は幼い頃、家族で過ごした知識はある。
倉橋さんにはそれもないらしい。
「ではクリスマス初体験ですね。気合いを入れなくては。」
「……いや何もそこまで…」
「絶対楽しいクリスマスにします。毎年毎年、待ち遠しくなるような、素敵な日にします。任せておいてください。」
詰め寄った僕に倉橋さんは目を丸くした。
それから呆れたように笑って、期待してると言葉が返ってきた。
僕は少し先のクリスマスに胸を弾ませた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
95 / 269