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CAGE5:日常に潜む影27
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「改めまして立花 柊って言います。先程は本当に失礼しました。」
公園を中程まで歩いて足を止めた柊は、俺達へ振り返るなり深々と謝罪した。
「……大丈夫だ、気にしていないから謝らなくていい。俺達の配慮も足りていなかった。」
言葉を返せば柊は笑った。
「……倉橋 洋だ。こっちはーー」
と蒼に目配せをすれば、「城峯 蒼」と無愛想に応えた。
「……俺達は何でも屋だ。」
「何でも屋、ですか?」
「……ああ、命に関わる仕事以外は何でもやる。」
「それじゃあお二人がここに来たのは……」
「……立花 直の依頼で来た。」
そうですか、と嬉しそうなけれど悲しそうに笑った柊のその感情を何と呼ぶのか俺には分からなかった。
「……兄さんの依頼?」
「……二人が幸せに暮らしている姿を確認してほしい、と。」
「ふふ、幸せに……か。兄さんらしいな。」
どうやら柊は直に対して負の感情は持ち合わせていないらしい。
「兄さんは元気ですか?」
「……ああ。」
「良かった。……会いには、来てくれないんですね。」
目を伏せて呟かれた言葉を、直が聞いていたならきっと涙を流して喜ぶだろう。
「…会う資格が無いと言っていた。」
「そんなことーー………そうですか。兄さんはとても優しい人だから。そう言うのも分かる気がします。」
「……会いたいか?」
咎め続けた自分自身を許そうと直は歩き始めた。
きっと時間が掛かる。
立ち止まることだってあるだろう。
「そうですね、出来るなら会いたいです。でも……兄さんを苦しめることはしたくない。俺、知ってたんです。兄さんと母さんの関係を。まだ幼かったけれど兄さんが苦しんでいたことを知っていた。優しい兄さんが母さんを拒絶出来ないことを知っていた。知っていたのに、何もしてあげられなかった。だからこれ以上苦しんでほしくないんです。」
缶を持つ手に力が入って白くなっていた。
「……兄さんが苦しむぐらいなら、会いたくありません。」
「……すぐには無理かもしれない。それでもアイツは自分の犯した罪を受け入れようとしてる。いつか自分自身を許せる時が来る。」
「……………」
「……依頼をしないか?」
「依頼、ですか?」
「……俺は何でも屋だ。直に会いたいと言うなら会わせてやる。」
アイツが立ち止まった時は、俺が手を引けば良い。
「……いつになるかは分からない。でも何年掛かろうと俺が手を引いて、直を連れてくる。もちろん苦しめたりなんかしない。必ず笑顔で会わせてやる。……だから依頼をしてみないか?」
隣の蒼からは「馬鹿だな。」と呟きが聞こえた。
それへは何も返さない。
自分でも馬鹿だと思うからだ。
馬鹿だと思うのに、口が体が勝手に動く。
直が幸せになるならと思うと止まらなくなる。
後先考えないところは、少し直に似てきたのかもしれない……。
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