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CAGE5:日常に潜む影30
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「………………」
「おい、聞いてんのか?」
「………ああ」
揺さぶられる感覚に意識を戻す。
信号が青に変わると慌てて柊もこちらへ駆けてきた。
「大丈夫でしたか!?どこか怪我とか…」
「……大丈夫だ。それより、何ともないか……?」
「え?俺ですか?俺は何ともないですけど……?」
あの男は柊が狙いだったわけではないようだ。
キョトンとした顔を見れば漸く心臓が鳴り止んでいく。
「あの、一体……」
どうしたのだと柊の表情が俺へ訴えかけてくる。
「……いや、何でもない。少し疲れていた。」
「でも………そうですか。無理はしないでください。」
言い掛けた言葉を取り止めたのは、人の心理に敏感な証拠だ。
「帰るぞ。」
踵を返した蒼の背中を追う前に、柊に携帯を出すように促した。
「え、はい…どうぞ。」
受け取ったスマホに上月から渡されている仕事用の携帯番号を登録して返す。
「……何かあったら連絡しろ。必ずだ。」
「何かって…?」
「……何でも良い。異変、違和感を感じたら連絡を必ずしろ。」
「分かりました…」
見上げてくる瞳は何処か不安に揺れていた。
「……じゃあな。」
軽く頭に手を乗せて、俺も踵を返す。
先を行く背中が首だけを振り向かせた。
「………何だ?」
「お前、長生きしないタイプだな。」
「は?」
「やっぱ俺とお前は全然違う。俺は自分を犠牲にしてまで他人を助けようだなんて思わない。」
「…………」
「お前の過去を知っている。だからこそ似ていると思った。」
柊の姿が見えなくなった曲がり角で、蒼は足を止めた。
「俺には守りたい奴がいる。この世でたった一人、唯一血の繋がりを持つ弟だ。俺は自分を犠牲にする守り方はしない。弟をこの世で一人にしない、それが俺の守り方だからだ。」
「……………」
「俺が死ぬ時は紅の手でと決めている。他の誰にも俺を殺させない。」
「……………」
「俺とお前の守り方、どっちが残酷なんだろうな。」
そう呟かれた言葉は俺へのものだったのか、もしくは自分自身への問い掛けなのか、蒼の表情からは読み取れなかった。
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