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CAGE6:止まない愛情4
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裏返りそうになった声を抑えて、出来る限り不自然のないように笑って応える。
「…………」
「……あの、洋さん……?」
何かを言い掛けて口を閉ざした洋さんは、真っ直ぐに僕を見る。
何もかもを見透かしてしまいそうな漆黒の瞳を、時々見返すのが怖くなる。
でもここで逸らしたら変に疑われますよね……。
「えっと、あの……何か?」
目を合わせたまま何も言わない洋さんは、小さく息を吐いて僕の方へ足を進めてくる。
「あ、あの…今日はもう遅いのでそろそろベッドに……」
そんな僕の軽い誘導なんて耳に入らず、洋さんはあっという間に目の前まで回ってきて、無言のまま僕の膝裏に腕を差し入れる。
「え、あ、ちょっ…」
「暴れるな。早く冷やさないと腫れる。」
怒鳴るような声ではないのに、声音にはしっかりと怒りが秘められていた。
「…ごめんなさい。」
「………………」
洋さんの足取りはそのまま浴室へと向かって、浴槽の縁に腰を下ろされると、冷たいシャワーが服の上から優しく当てられた。
「……痛みは?」
「………いえ、そんなには……」
「……直。」
目の前で跪いた洋さんが咎めるように僕を呼び、あの瞳が射抜くように見上げてくる。
「……痛い、です……。すごく……痛い……です。」
ぎゅっと握り締めた両手がカタカタと震えたのは掛かる水が冷たいせいなのか、全てを見透かされる目が怖かったのか、或いは自分の弱さが悔しかったせいなのか……僕には分からない。
「……これ暫く足に当てておけ。」
そう言ってシャワーヘッドを僕に持たせると、洋さんは浴室から出て行ってしまった。
怒って……ましたよね……。
僕はきっとまた間違った選択をしたんだろう……。
水が冷たい。
じんじんと痛みを訴えていた太股は落ち着いてきたが、代わりに身体の体温が奪われていく。
そう言えば今は冬で、今日は今期一番の冷え込みだと言っていたっけ。
流れる冷水を見ながら、ぼんやりとそんな事を思った。
「……何を、間違えたんでしょうか……?」
一人心地に呟いた声が、虚しいほど反響して僕の耳へと返ってくる。
それからすぐにブランケットを手にした洋さんが戻ってきて、それを僕の肩へと掛けてくれた。
「……冷えるだろ。ほら、そっち貸せ。」
「あ……ありがとうございます。」
僕の手からシャワーヘッドを取って、さっきと同様に太股に当ててくれる。
「……もう少し冷やしたら事務所に行く。上月に連絡したから診てもらえ。」
「え…」
「……病院は嫌だろう?」
「はい……」
怒って、いるのだと思う。
「…怒ってないんですか?」
「………怒ってる。でも今はいい。話は後でだ。」
それ以上何か言葉を発することはなかったけれど、握り締めていた僕の手に洋さんの手がそっと包むように添えられて、何だか無性に泣きたくなった。
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