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CAGE6:止まない愛情20
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トイレの案内板が見えた所で、洋さんが笠見さんの肩を掴んでその足を止めさせた。
「何だ?」
「……俺が見てくる。ここで待ってろ。」
「私に命令する気か?」
「……気になることがある。」
眉間にシワを寄せた笠見さんは睨むように洋さんを見つめた。
「変な気は起こすなよ。」
「……分かってる。」
嘆息した笠見さんは腕を組んで背を壁に預けるように道を譲った。
足音を立てないようにと洋さんから言われ、その背中を追う。
ゆっくり静かにトイレの入口へと近付くと、徐々に声が聞こえてきた。
「ーーい、ええ。」
美柴くん……ですよね、この声。
前を歩く洋さんの袖口を引くと、首だけを振り向かせて人差し指を口許で立てる。
頷いた僕を見て、洋さんは更に近付いていく。
「……分かってます。」
入口ギリギリまで近付けばより鮮明に声が聞こえた。
「…それは問題ありません。」
聞こえてくるのは美柴くん一人の声だけ。
独り言……いや電話……?
「……順調です。ですが……僕には分かりません。何がそんなに貴方を惹き付けるのか。……あ、いえ申し訳ありません、余計なことを言いました。」
驚いたのはその声音だ。
僕らと話す時よりも断然感情が見える。
「はい、全ては滞りなく。また連絡します。」
その言葉を最後に通話を終えたらしく、洋さんは中へと入っていく。
僕らに気付いた美柴くんは一瞬驚いたように目を開いて、またすぐにいつもの表情へと戻っていく。
「早かったですね。」
「面会は15分しか許されていないからな。」
洋さんの言葉に手にしていたスマホで時間を確認した美柴くんは短く息を吐いた。
「それは失念でした。」
「今後の参考に覚えておくんだな。」
「そうですね、勉強不足でした。」
洋さんは踵を返し、帰るぞと短く言った。
電話の内容については追求しないらしい。
「…帰りましょう、美柴くん。」
「………馬鹿な人達ですね、やはり理解出来ない。」
そんな美柴くんの本心を垣間見たこの数日後、彼は僕らの前から姿を消してしまった。
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