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CAGE6:止まない愛情32
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両肩を掴んでいた美柴くんの手は、ゆっくり地面へと落ちていく。
「……僕の知っている愛とは随分違いますね。」
「そんな事はありません。美柴くんも知っているはずですよ。手袋や珈琲の温かさ、それから先程感じていた胸の痛みも。」
「………これも?」
胸元を握り締めた彼に僕は大きく頷いた。
「……それじゃあ僕が今、戻ろうとする立花さんにムカムカするのも、洋さんのことを考えるとソワソワするのも、また………またあの家に二人と帰りたいと望んでしまうことも……全部、そうなんですか?」
「そうです、と胸を張って頷きたいですが、実はこれは願望なのかもしれませんね。そうだと僕は……いえ、僕達はとても嬉しい。」
ねえ、洋さん…貴方だってそうでしょう?
「それから僕らも美柴くんを愛してますよ。貴方が一緒に過ごすうちに感情が芽生えたように、僕らにも同じ気持ちがあるんです。」
「………そう、ですか。それは………とても温かいですね。」
そう言葉を落とした瞬間、ぎこちなく、それでも優しく美柴くんが笑った。
「ふふ、嬉しい。」
「え…………」
「ずっとその顔が見たかったんです。」
「その顔?」
「笑顔。素敵ですよ。」
誉めたつもりだったのに、美柴くんは顔をしかめた。
こう言うところは洋さんに似てますね。
「美柴くん、腕解いてもらえますよね?」
促すように詰め寄った僕に返されたのは否定の返事。
「それは出来ません。」
「ーーどうして!?」
「安心してください。洋さんも見捨てません。」
「?」
「僕が戻ります。立花さんはここで待っててください。」
「なっ………駄目です!」
「心配しなくても、もう裏切ったりしませんよ。」
「そう言う意味じゃなーーえ、……んっ!?」
口に当たる柔らかな感触には覚えがある。
これ………キ、ス……され……。
すぐに離れたそれは少し寂しそうに弧を描いた。
「二回目ですね。」
「どうして…………?」
「愛してるから、ですかね。」
おどけたような口調で言うと美柴くんは僕の身体に腕を回した。
「離れるときはハグをする。ルールでしたよね?………いってきます。」
「美柴くん……」
離れた身体は呼び止める間もなく、走り出してしまう。
「あ……待って!待ってください、美柴くん!!」
どんなに叫んでもその背中が振り返ることはなく、僕の声は虚しく溶けていった。
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