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2.望む相手は『普通』だけ
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「う~ん…!」
今日も清々しい朝だ。
朝陽がとっても目に沁みる。
そうやって調査対象が建物から出てくるところを張っていると、仲良さそうに出てくる二人の姿が見えた。
今回の対象者の相手はこれで三人目。
どうやら行きずりに寝ることが多いようだ。
これは浮気と言うより、単純な性欲処理な気もするのだが……。
「絶対に本命がいるはずなんです!」
依頼人に報告した途端彼はそうやって強い口調で言ったのだが、どうしてそんなことが言い切れるのだろう?
とは言え継続して調べてくれと言うのでこちらとしては有難い申し出だった。
このゲイ専門の浮気調査の利点はまず、依頼人が男だから金に糸目をつけない輩が多い――――。
大抵の男はそれなりにしっかりした職に就いているし、パート主婦達とは違って収入も多い。
それ故に費用を出し渋ったりはしないのだ。
だからこうして調査を継続したとしても、支払いができないと言われることもまあないと言えるだろう。
「ちなみにこの荒谷という男に本命がいると言う何か確証はあるんですか?もし相手に心当たりがあるのなら、そちらを見張った方が調査自体は早く決着がつくと思いますが」
商売とは言えいつまでも拘束されるのも問題なので、一応そうして提案をしてみる。
うちは別に悪徳事務所ではない。
できるだけ良心的にをモットーにやっているので、これくらいのことは普通に言ってやることにしているのだが…。
「それがわかれば苦労はないんですよ。でも、絶対にいるはずなんです!携帯を見ながらニヤニヤしていることがあるし、何か企んでるようにあくどい顔をしている時もあるし…。あんな顔、僕には向けてくれたこと一度もないのに!」
悔しそうにそう口にする依頼人になるほどと頷きながら、可能性を探る。
「わかりました。では一か月を目処に探りますが、何も出てこない場合は途中で方針を変えることもあり得るとお伝えしておきます」
「はい。宜しくお願いします」
こうしてその荒谷という男を更に調査したのだが……。
「所長!あの荒谷と言う男、意外や意外!所長と同じドSなことが判明しましたよ!」
調査員が嬉々として報告を入れてきたので思わず手元の報告書を握りつぶしそうになった。
一体何の報告だ。
いらない報告をしてくるんじゃないと思いながらなんとかその情報を聞き流し、笑顔でその先を促してやるとどうやらその情報は思った以上に重要な情報だったことが判明する。
曰く、荒谷と言う男はいわゆる『ドSな男を落として嬲るのが好きな、鬼畜ドS』というやつらしいのだ。
気に入ったSっ気のある男を誘って、恥ずかしい写真を盾に脅しをかけて、飼い慣らして喜ぶのが常らしい。
道理で依頼人の前でニヤニヤと悪巧みをするような顔をしていたわけだ。
きっと携帯で相手を嬲ると同時に、本命が自分が浮気をしているのではと不安そうにしているのも見ながら合わせて楽しんでいたのだろう。
「ちっ…」
厄介だなと思ってこれからの算段を考え始めていたのだが、何故か調査員達はもろ手を上げて喜んだ。
「やりましたね所長!まさに所長にピッタリの相手ですよ♪」
「そうですよ!相手が鬼畜ドSならきっと所長をドSのまま放っておいたりしないでしょう?きっと素敵なカップルになれますよ!」
「おめでとうございます♡早速おとり捜査で計画立てて絡め取りましょう♪」
「は?」
一体こいつらは何を言い出したのだろう?
何故そんな鬼畜ドSを自分が彼氏にしなければならないのか。
ふざけるにもほどがある。
「その鬼畜野郎の彼氏は今回の依頼人だろう?ふざけてないで真っ当な意見を出せ!」
だからビシッと所長らしく牽制し、彼らの浮かれた気分を一掃してやった。
それなのに――――どうして自分はバーでそんな鬼畜野郎と呑む羽目になっているのだろうか?
「へぇ?そんなに部下がどうしようもない奴らなんだ」
「ああ。人を散々ドS呼ばわりしやがって…絶対弱み握ってあんな口きけないようにしてやる」
ここに至る原因となった面々を思い出しクッと笑っていると、思った通り荒谷は食いついてきた。
「藍河さんって結構ドS?そういう発言ってできる男って感じでカッコいいよね。俺、凄く好みだなぁ。」
にこやかに人当たりよく微笑む目の前の男はこうしてみると調査通りの鬼畜ドSには見えない。
けれど俺の中のアンテナがビンビンこいつはドSだ気をつけろと言ってくるのを感じた。
とは言えこれはプライベートではなく仕事の一環だ。
我慢。我慢。
一応こうしてコンタクトをとる前に依頼人にどうするかを尋ねてみたのだが、彼はなんとかやめさせる方向に持っていけないでしょうかと相談してきた。
実に献身的でこんな男には勿体ないほどの純情な依頼人。
彼氏にするならあんな男がいいとつくづく思った。
だから調査員たちに任せて依頼をこなそうと思ったのだが……。
(チッ…!)
うちの調査員の中では荒谷の気に入りそうなドSを演じられるような男がいなかった。
だから皆から拝み倒され、仕方なく自分がここに来ることになってしまったのだ。
正直やりたくなんてなかった。
どうせ口説くなら依頼人のような純情タイプがいい。
そう思いながらグイッと酒を傾けると、そっとその手に荒谷の手が添えられた。
「藍河さん。もっと飲みたいならうちで飲み直さない?酔い潰れてもそのまま泊まってもらえるし。ね?そうしなよ」
ニコニコと善人面をするこの男に、フッと笑みを浮かべて答えてやる。
「何?襲ってほしいの?」
「嫌だなぁ。そんな訳ないでしょう?ただ話が合いそうだからもっと話したいなと思って」
「ふぅん?まあいいけど…俺が簡単に落とせると思ったら大間違いだぞ?」
どこまでも挑発するように言ってやると、荒谷の表情がほんの僅か愉悦が滲んだ。
これは俺だからわかる程度のほんの僅かな変化。
(スイッチが入ったな…)
そう思えるほどのわかりやすさだった。
これならば時間を掛けず、今夜確実に仕掛けて来てくれることだろう。
「ええ。勿論♪楽しみだな。藍河さんと親しくなれるのが」
そうしてクスリと笑う荒谷にニッと笑ってやってそのまま立ち上がる。
こういう時はあまり焦らしてもいいことなんてないのだ。
これくらいのタイミングで乗ってやるのが一番いい。
「ここですよ」
そうして連れてこられたのは何度も調査で来たことのある荒谷のセカンドハウス。
本命が絶対に来ないこの部屋は荒谷の遊び場所だ。
その部屋に初めて足を踏み込みながらこの後の展開を考え付く限り頭でシュミレートする。
一切抜かりはない。
酒を酌み交わしながら話されるのは荒谷のこれまでの(大幅に盛ってある)恋愛遍歴。
曰く、運命の相手に会えない虚しさから色々な男と寝てきたけれど、自分には運命的なものを感じた―――云々。
こんな話に嵌る男がいるのか?
(馬鹿だろ)
そう思ってグラスを煽っていたところで一度トイレに立った。
恐らく見張っていた時に購入していたアレをグラスに仕込んでくるはずだ。
気付かれないようにそっと影から窺っていると案の定、ドSな笑みを浮かべながら嬉々として酒を注ぎ媚薬を仕込んでいる姿が見えたのでそれをペン型のカメラで写真に収める。
そしてちゃんとトイレに行ってから場へと戻り、飲んだ振りをしてそのグラスに口をつけた。
(大体酒に媚薬なんて仕込むなよ…)
アルコールが入った上に媚薬なんて仕込まれたら誰だってグダグダになってしまうだろう。
そうなったところで服を脱がされ、恥ずかしい恰好をさせられて写真を撮られたらもうそれで詰んだも同然だ。
本当にやることがえげつない。
さて…どうやって乗り切ろうか?
そんなもの考えるまでもなくこうやるに決まっている。
クッと笑ってその酒を口へと含み、完全に油断しまくっていたそいつを引き寄せて口移しで全部流し込んでやるんだよ。
決まってんだろ?
荒谷は最初は抵抗していたが、徐々に力が入らなくなって真っ赤な顔でカタカタと身を震わせ始めた。
どうやら本人は人には盛るくせに自分で試したことがなかったらしい。
初めての強烈な快感に全身が快楽に染まっていくようだった。
「ひっ…ひぃっ…!」
「いい顔だな。そそられるじゃねーか」
そうやってあざ笑うかのように身悶える男を恍惚と見下ろしてやると、首を振りながらやめてくれと言わんばかりに目で訴え始めた。
別に自分としては言われるまでもなくこんな男に手を出す気はない。
けれどそれをわざわざ言ってやるほど人が良くはない。ただそれだけのこと。
「さて…と。身悶えているところを写真にでも残しておいてやるかな」
ククッと笑ってわかりやすく携帯で写真に撮ってやると泣きそうな目でこちらを見つめてきた。
「や…やめっ…」
「は?どうせ似たようなことやってたんだろう?その様子だと媚薬か?この俺に盛るとか…くくっ。ないから」
最後の言葉だけ真顔で冷たく言い放つと、荒谷は何故か目を瞠った後にじにじとこちらへとにじり寄り、カチャカチャと俺の前をくつろげ始めた。
どうやら勝手に抱いてほしい気持ちになったらしいが…残念だったな。俺はそんな安い男じゃない。
「何勝手なことやってんの?ご主人様の許しもなく下僕がそんなことやってもいいと思ってんの?」
そんな言葉にふるふると涙目で首を振り懇願するかのようにこちらを見遣ってくるが知ったことではない。
「助けて欲しいって?俺が?薬を盛るような奴を?絶対ゴメンだな。ソレが抜けるまで一人で自慰でもすれば?」
ククッと言ってやるとほんの少し考えた後でベッドの方へと向かい、本当に泣きながら自慰をし始めた。
恐らく本当に辛いのだろう。
何度も何度も力の入らない手を動かして必死で自慰を試みるが、上手くできずにすすり泣き始める。
「た…けて…。おね…がい…れす」
そうやって訴えてきた男をただただ微笑で見遣り、きっかり三十分経ったところでそっと目の前に立ってやった。
「もう二度とこんなことをするな。今度やったら俺が直々にお仕置きをしてやる。わかったな?」
冷徹な声でそう言いながらカシャリと写真を撮って、そのまま踵を返して部屋を出る。
頷きと共に許されたと思っていたであろう男の絶望的な表情がいっそ心地いい。
(ああ…いいことしたなぁ)
後は本命の彼氏に抜いてもらうなりなんなりしてもらえばいいのだ。
どうせすぐ外で待機しているのだから――――――。
「藍河さん!」
ほらな?
あんな男のどこがいいのかさっぱりわからないが、この依頼人は絶対にあの男を見捨てたりはしないのだ。
本当に羨ましい限りだ。
「二度としないと確約は取った。さっさと行って薬を抜いてやってくれ」
報告書はまた後日提出させてもらうからと言ってやると、彼はコクリと頷いてそのまま愛しい恋人の元へと駆けていった。
これで仕事はおしまいだ。
もう二度と悪いことはしないことだろう。
そうして全部終わらせて事務所に帰ったのだが―――――。
「やっぱり所長のドSって相当ですよね」
「これで普通の恋愛をしたいとか、ないない。あはは!」
レコーダーの内容を聞いて言いたい放題の調査員たちが憎い!
「…俺は誰にでもドSになるわけじゃない。『普通』の相手が恋人になったら絶対にそんな発言はしなくなる!はずだ!」
そう断言したのに皆が皆揃ってケタケタと笑うのだ。
(許せん!)
「大体極悪鬼畜ドSを懐柔できちゃう所長に普通の相手なんて来てくれるはずないでしょう?」
「そうですよ~。もうサッサと諦めて可愛い系のドMな人、捕まえちゃってください♪」
そんな軽口を叩く調査員たちを今日もドS発言で抑え込み、サクサク仕事を片付ける。
自分がドSになってしまうのは、こいつらのせいなのではないかと思ってしまう今日この頃。
(今に見てろよ!)
そうして今日も今日とて待ち人を待ち続けるのだ。
いつか自分にもあんな純情な恋人ができるといいなと思いながら―――――。
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