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5.ストーカーとの遭遇~尾関side.~
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その日俺は妙な視線を感じていた。
何と表現していいかわからないが、こう…じっとりとまとわりつくような視線とでもいうのだろうか?
それは好意のようでもあり執着のようなもののようにも感じられた。
(……なんだろう?)
正直こんな視線を感じたのは初めての事だ。
なんだか嫌な予感がしたが、自分から動こうにもその正体がわからないためどうしようもない。
取りあえずまずは仕事が第一。そのついでに新しい恋人探しだ。
正直この間藍河に抱いてもらったばかりだし、次は男よりも女の方がいいような気がする。
けれど相手は誰でもいいわけではない。
フラれて藍河に抱かれたい気持ちもあるが、あくまでも探すのは『本気になれそうな相手』なのだ。
遊びの女なんていらない。
どうせ付き合うなら自分にとってプラスになる相手がいい。
これまで付き合った相手は性格もそうだが、それ以外からも得るものは大きかった。
それは例えば料理の腕だったり、仕事をする上での姿勢や考え方だったりだ。
皆それぞれ何かしらお互いを高め合える存在だった。
はっきり言って自分の妻の座を安易に狙ってくる女は願い下げなのだ。
昔なら兎も角、ここ最近は藍河への気持ちを忘れさせてくれるようなハイスペック持ちにしか興味がない。
そしてそんな相手を好きになれたら良いなと思う。
(さて今度はどんな相手にしようかな…)
そう考えながら出会いを求めて飲みに行き、自分に向けられていたその視線のことなど気にしないことにしたのだが――――。
ひと月後、仕事から帰ってポストを見た途端、寒気が走った。
そこに入っていたのは大きめの封筒で、差出人の名前はない。
妙に丸っこい字で『尾関 智也様』と書かれてある。
そして恐る恐るその封を開けたのだが―――――。
中から出てきたのは自分がこのひと月会った相手との写真の数々だった。
中には腕を組んで歩いているものや軽くキスしている写真まで含まれている。
しかもご丁寧に相手の詳細まで添えられて、『こんな相手は尾関さんにふさわしくないですよ』と手紙まで添えられていた。
そこまで見て慌てて周囲を見回し、急いで自分の部屋まで駆け込んだ。
正直言って怖すぎる。
こんなストーカー紛いのことをされるなんて初めてのことだ。
一体どこのどいつがこんなことをしてきたのだろう?
これでは恋人を作るどころではないではないか。
早めに何とかしないとと頭のどこかで冷静な声がするが、如何せん衝撃が強すぎた。
ズルズルと玄関扉に沿ってしゃがみ込み、震える手でギュッと携帯を握りしめる。
そうして不安に震えていたところで突如その携帯が鳴り始めた。
藍河かと思い、どこかぼんやりした頭でその電話に出たのだが、相手は藍河ではなかった。
「智くん?私、リサよ」
耳に突然飛び込んできたのは聞いたことのない甘ったるい女の声。
直感でさっきの封筒はこの女が差出人で間違いないと思った。
バクバクと恐怖で弾む胸を押さえ、相手の声に辛うじて耳を傾ける。
「今日お手紙を出したの。見てくれた?私からのラブレターとプレゼント。気に入ってもらえたら嬉しいな♡」
「……」
「やだぁ♡リサからの電話が嬉しいからって返事くらいしてよぉ。でもわかってる。智くんは照れ屋さんだもんね♪今度お料理も作りに行くね。智くんの口に合うといいなぁ。楽しみにしてて♪じゃあまた。夜更かししないで早く寝るんだよ~。バイバイ♡」
言うだけ言ってプツリと切れた電話が怖すぎて思わず放心状態になってしまった。
(え?何?リサって誰?こんな気持ち悪い喋りする女、知らないんだけど…。人違い…な訳ないよな?)
今の電話はどう考えても先程の封筒の件を示唆していたし、まず間違いなく自分をターゲットにした発言なのだろう。
それを思うとあまりの恐怖に心臓がバクバクと弾み、無性に家を飛び出したい衝動に駆られてしまった。
自分は一体どうしたらいいんだろう?
すぐにでも警察に駆け込むべきなんだろうか?
けれど大の大人の男が一人の女に高々一度怖い電話をもらったからってまともに話を聞いてくれるのか?
「いたずら電話でしょう?」くらいで取り合ってはくれないのではないか?
そんな思いがぐるぐると頭の中で回りだす。
怖くて怖くて仕方がなくて、震える足を叱咤しながら家の中へと入り、そのままベッドへと倒れこんだ。
***
それからは正直恐怖の連続だった。
「あ、智くん?もう。折角会社まで迎えに来たのにいないんだもん。出張なら出張って予め教えてくれなきゃ。本当にうっかりさん♡」
「今日は飲み会なのね。出来れば職場の方に紹介してもらいたいな♡」
「ご飯作りに行こうとしたらお母さんに止められちゃった。もっと特訓して美味しいお料理を振舞えるように頑張るね♪」
会ったこともないのにそんなどこか恋人気取りな内容の電話がかかってきたり…。
「若社長!いよいよ結婚秒読みですか?先日可愛らしいお嬢さんがニコニコしながら若社長のことを尋ねてきて、惚気られましたよ~」
「いや~。まさか若社長の好みがあんな子だったとは驚きました。てっきり可愛い系よりキャリアウーマンみたいなタイプが好きなのだとばかり思ってましたよ」
そうやって会社ですれ違う重役達から笑顔で声を掛けられ背筋に寒気が走った。
「いや。今は誰とも付き合っていないので」
そう答えを返すも、「喧嘩ですか?早めに仲直りした方がいいですよ」と返される始末。
正直知らぬ間に外堀を埋めにかかられていて恐怖が倍増してしまった。
そしてとうとうこの日がやってきてしまったのだ。
いつものように自宅マンションに向かいエレベーターを上がっていく。
けれど部屋の前に一人の女が立っていることに気づき、慌てて身を隠した。
そこには顔立ちは可愛らしい、清楚な装いをした女がそわそわと自分を待っている。
知らない顔だ。
手にはスーパーの袋を持ち、そこからは色々な食材が見え隠れしている。
それを見てあの女が『リサ』なのだと確信した。
正直絶対に見つかりたくはない。
だからそっとその場から立ち去り、急いで近くのビジネスホテルへと足を向けた。
もう家には早々帰れない。
明日は有休をとって必要最低限の荷造りをし、しばらくホテル住まいでもしようと思い立った。
これ以上ストーカーの恐怖に怯え続けたくはない。
こうして非常に不本意ながら自分のホテル住まいは始まったのだった。
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