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そのじゅう
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会いたかった恋人と目を合わせれば、周りから音が消えた。
波瑠だ。
波瑠がいる。
昨日帰ってこなかった波瑠がいる。
会いたかった波瑠がいる。
背中に感じる温もりは波瑠のもの。
俺を受け止め支えているこの身体も波瑠のもの。
波瑠に浸っている俺を起こすように、波瑠は掴んでいる手に力を込めてきた。ギリッというその痛みに思考が波瑠から解放された。
周りが世話しなく動き始める。
波瑠は友人を見ていた。凝視しているといった方が合っているかもしれない。
さっきの笑顔は既に何処かへ消えていて、ピリピリした雰囲気だけを残してじっと見つめている。
対する友人はへらへらとした笑みを浮かべていて、掴み所の無さそうな人に見えた。
なんだ。なんなんだ。一体……。
俺が波瑠に浸っていた一瞬に――もしかしたら数秒浸っていたかもしれないけど、その間にも時間はしっかり進んでいた。
しかし俺は二人の間に何があったのか全く把握できず、とりあえず「すみません」と言って自分の脚でしっかり立った。
波瑠から身体を離すと、その間をショッピングモールの入り口から入ってきた冷たい風が流れた。
俺の他人行儀な謝罪に波瑠は一瞬きょとんとしたがすぐに場所やら立場やらを思い出したんだろう、素早く手本のような笑顔を貼り付けた。
「いえ、こちらこそ……すみません強く引っ張っちゃって」
「波瑠くん!早く!」
「あ……」
二人で声の方を向くと首からパスを提げた女性がカメラを持ってはしゃぐように手招きしていた。
波瑠はもう一度俺を見て何か言いたそうに口を開くも、なにも言わない。
波瑠に助け船を出すように、波瑠から逃げるように、俺はスタッフの顔で
「ごゆっくり」
と波瑠を送り出して、待機列の先頭の人の横に移動した。
動かない波瑠に痺れを切らした女性が波瑠の腕を引き階段を上がる姿に苦笑しながら俺は横で待ってる女性に「もう少々お待ちください」と声を掛けた。
女性も困り顔で、でも興奮したように「大丈夫です!」と言ってくれた。
そんな姿にありがたく思いながら、『早く捌けろよ波瑠』と完全に仕事に戻った俺は苛立った。
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