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視線
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ピピピピピピピ
あ"ー・・・・うるせぇ。
布団を被り遮断しようにも意味なんてなく、仕方なく隙間から未だけたたましく鳴り続ける音に向かって手を伸ばした。
ピピピピピピピピピピピッ・・・・
サイドテーブルの上をがさごそしてスマホを手繰り寄せる。
寝転んだまま時間を確認して一つ溜め息。
昨日はあれからすぐに寝たから。
というか何時に寝たかなんて記憶にないけど、それでもアラームをちゃんといつもの時間にセットするとは習慣とはある意味恐ろしい。
はぁ、もう一つ溜め息を吐いてから起き上がりベッドから出る。
寝巻き代わりのスウェットに着替えることもなくすぐにベッドで寝たからか普段着として実家から来てきた服はしわくちゃで見るも無惨な姿になっていた。
それを脱ぎ捨てベッドの上に放り投げるとハンガーに掛けてある制服を手に取り袖を通す。
たった数週間振りだというのにどこか懐かしく感じるから不思議だ。
今日から新しい日々が始まる。
よしっ、行くか。
気合い十分にドアを開けた先、共有のリビングにはすでにルームメイトが寛いでいた。
「やっほー、おはよう大和」
「おはよ。今朝はずいぶんと早いんだな」
「まぁね~」
そう言う椅子に座った奴を見下ろし呆れ、起きてから何度目になるか分からない溜め息を吐き出した。
「お前、相変わらず朝はそれだけなんだな。朝ぐらいちゃんと食え。朝からがっつり食えとは言わないから、せめてタンパク質くらい摂れ。朝御飯は一日の」
「あーはいはい分かってます、そりゃ~もう分かってますとも。明日からはちゃんと気を付けますぅ~」
取って付けたようにそう言いつつ左手には朝飯代わりのコーヒーが入ったマグカップを、右手にはスマホ。
その間も奴のスマホはひっきりなしに震え、その指はその度に忙しなく画面の上を動きまわる。
それを横目で見ながら顔を洗おうと洗面所に向かった。
歯磨きと洗面をすませリビングに戻ると、奴はすでに椅子から立ち上がり鞄を肩に引っ提げていた。
その手には未だにスマホが握られている。
「もう行くのか?」
「うん、ちょっと野暮用があるかね。それじゃまた後で」
ひらひら手を振りながら出て行く後ろ姿を眺める。
腕時計に目を落とすと朝のHRにはまだ余裕がある。パンぐらい食べる時間はありそうだ。
「あ、やっと来たな。おせーよ大和」
「パン食ってた」
「・・・・・・・相変わらずだな」
結局あれからトースターでうっすら焦げ目がつくまでパンを焼いてマーガリンをムラがないように耳の縁までたっぷり塗って、コーヒーと一緒に食べたら思いの外ゆっくりしていたみたいで教室に着いたのはHRの5分前だった。
「つかお前、休み中ずっと俺のLINE無視してただろ。ふざけんじゃねぇよ。やっと既読ついたと思ったら昨日の夜だし、返事は帰ってこねぇし。嘗めてんのか」
「まぁまぁ悠治、そのくらいにしておきなって。大和にだって色々やることがあったんだろうから。そんなに言っちゃ可哀想でしょ」
「甘いぞ、春一。大和のことだ、どうせ見るのを忘れてたとか、スマホの存在を忘れていたとか、返事返すのが面倒だったとかだぜ、きっと」
「すごいな、よく分かったな」
「・・・・・ほらな」
「アハハハ・・・・・え~と、とりあえず久し振り。元気そうだね」
「ああ、そっちもかわりなさそうだな」
「うん、お陰さまでね」
キーンコーンカーンコーン
なんてことを話しているとタイミングよくチャイムが鳴った。
「チッ、続きは後だ。てめぇ逃げるなよ」
「じゃぁね、大和また後で」
「ああ」
散り散りになって各々の席に着くと同時に俺達の担任が顔を出した。
「おーい、チャイム鳴ったぞー。席に着けー」
それに慌て全員が着席した頃、奴は堂々と前のドアからやって来た。
「あ、ギリセーフ?ラッキー♪」
「ギリアウトだ。アホ。嵐山清都欠席と」
「ウソウソ冗談。ごめんなさい俺が悪かったです。だからこの通~り今回はどうか見逃してください。神様仏様竹ちゃん様」
「おーおー善き心掛けだ。そんなそなたに免じて今回だけは多目にみよう。次からは気をつけるのだぞ」
「よっしゃ!さすが竹ちゃん心が広い。愛してる~」
「はいはい俺も愛してるから。早く座れ」
「は~い」
元気よく、まるで小学生のように手を上げ返事をする清都に周りからクスクスと笑い声が巻き起こる。
それにピースで返すとさらに担任、竹ちゃんこと竹下洋輔の注意がとぶ。
何度かそんなやり取りを繰り返し、漸く奴は自分の席へと向かった。
ここまでの所要時間ゆうに5分以上。
教室の外にはすでに1時間目の数学の担当である学年主任が待機していた。
ここまで一切特記事項を言うことなく、清都の戯れに付き合っていた竹ちゃんは入ってきた学年主任に怒られペコペコ頭を下げている。
竹ちゃんはまだまだ20代前半で、たぶん教師の中では一番生徒に近い人だ。
いつだって生徒の目線になって物事を考えてくれる。そして授業も解りやすい。
だからわりかし生徒に人気はあるが、学年主任からは、もう少し年配としての自覚を持つようにと再三注意を受けているらしい。
それでも治らない、或は直す気がないのだから、こうやって怒られるのだ。
少しは学習すればいいのに。
ちらりと腕時計で時間を確認すれば1時間目が始まってからすでに10分が経過していた。
もう一度廊下に目を向ける。
あの様子じゃ暫く授業は無理だな。
ふぁ、少し寝るか。
他の奴等も各々喋ったりしてるし問題ないだろ。
そう思い机に突っ伏して完全に寝る体制に移行する。
すると微かに誰かに見られているような、なんとも居心地の悪いものを感じた。
ゆっくりと顔を上げるとその正体はすぐに解った。
教室の真ん中一番後ろの俺の席。
そこから机3個斜め前の席から視線を投げて寄越すのは、先ほどまで竹ちゃんと漫才のようなやり取りをしていた清都だ。
その清都がじっと此方を見ている。
どこか別の方を見ているのかとも思ったが、俺の後ろには誰も座っておらず、思い過ごしなんかではなく間違いなく目が合っている。
なんだ・・・・・?
その突き刺さるような視線に不思議に思っていると、不意にそれが外された。
結局、学年主任の気が治まったのはそれから30分後。
そうなると授業時間なんて殆どなく、学年主任は自習とだけ告げ教室から去っていった。
だからといって言いつけ通り大人しく自習なんてする真面目なクラスなわけなく、教室内を移動して友人と喋ったり、悠治は机に突っ伏し本格的に眠っているようだし、春一は真剣な表情で本を読んでいる。
俺はというと先程の視線が頭を掠めちっとも眠ることができなかった。
その時間、いやその日はそれから清都の視線が俺に向けられることはなかった。
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