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そして、事件は起こる …4
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なんとか自分の足で踏ん張って立ったルシエルは、ミシェルが習っていた事を思い出しながら、膝を曲げて淑女の礼をした。
「あの、助けていただきありがとうございました」
「いや。礼には及ばない。……君はこのパーティには初めて参加したのか?」
「はい」
何か怒られるのか、とルシエルは身構えた。
が、先程まで冷たい雰囲気を放っていたその金髪の男は、優しそうにフッと笑った。
「そうか。どうやら最近、このパーティにああいう輩が出てきたみたいで……。君のような子は狙われやすいのだろう。気をつけたまえ」
その優しい口調に胸が激しく高鳴るのを感じたと同時に、ルシエルはいつもの頭痛に襲われた。
(--っ!なんで、今っ…)
とにかくすぐにこの場から離れなきゃ、と言う思いに駆られて、ルシエルは再度頭を下げる。
「は、はい。…では、あのっ、戻りますのでっ。本当にありがとうございました……ッ!」
そう言って頭を下げた瞬間、ひどく頭が痛んでルシエルはフラリとよろめいた。
「あっ」
倒れる、と思ったのも束の間。
ルシエルは目の前の男性に抱きとめられた。
さらにズキンと頭が痛む。
「〜〜っ!!」
痛みに耐える為、ルシエルは思わずその胸に頭を寄せた。
小さく震えるルシエルに、男は迷ったものの、その身体を支える為にルシエルの背に手を回した。
「どうした?大丈夫か?…あぁ、体調が悪いんだったな。……おい?本当に大丈夫か?医務室まで歩けるか?いや、誰か呼ぶか?」
「だ、大丈夫、ですっ。すみません…っ。すぐ、治りますのでっ」
医務室に連れて行かれたりなんかしたら大変だ、とルシエルは小さく頭を振った。
男は「そうか?」と言いながら、ルシエルの背中を優しく撫でる。
男からほのかに香る甘い匂いに気付いたルシエルがそれに意識を向けると、頭痛が徐々に収まっていくのが分かった。
そう言えば、先程の男の香水は臭かったのになんでこの人の香りはホッとするんだろうなんてことを考えた。
しばらくすると、なんとか落ち着いてきたようだ。
「もっ、申し訳ありません。もう、大丈夫です」
そう言って、ルシエルはゆっくりと顔を上げた。
「……」
男は何も言わずに、ルシエルを見返す。
仮面越しに視線が絡まった。
(えっ?なんだろう?もしかして、怒ってる?)
絡んだ視線に再び胸が高鳴る。
その事に焦ったルシエルが自分の状況に気付いて、身体を離そうとした時……
ルシエルの目の前は、影で覆われた。
(--えっ?)
咄嗟のことで、ルシエルは自分の身に何が起こったのか分からなかった。
あ…と思った時には、その男の顔が目の前にあったのだ。
いや、目の前、と言うより……密着していた。
身体が。
唇が。
「っ!!」
びっくりしすぎて、動けない。
何が起こっているのか、頭で理解出来なかった。
--キスされている、とルシエルの頭が追いついた時、唇が微かに震えた。
それに反応するように、目の前の相手が唇をそっと離す。
けれど、身体は離れていかない。
混乱しながらも、ルシエルは自分の置かれた状況を把握しようと頭を働かせた。
その人の身長はルシエルより頭一つ高く、パッと見は細身に見えるけれど、服越しに感じる身体は逞しさがある。
月夜に輝く金髪はふわりと後ろに撫で付けられていて、清潔感を感じた。
顔は…仮面をつけているために、伺い知ることは出来ない。
が、その雰囲気は自信に満ち溢れていて……おそらく良い顔を隠し持っているのだろうと思わせた。
--それはどこからどう見ても、男だ。
なんで男が僕にキスなんてするんだ。
いや、最近流行りの歌劇団の例もあるし、女と言うことはないのか?
違う。それは現実逃避過ぎる。
あ、そうか。僕は今、女の格好をしている。
だから、キスされたのか。
あぁ、男同士じゃない。
いや、待てよ。
だからと言って、キスして良いと言うわけでは--
なんて事を混乱した頭で考えながら、ルシエルは目の前の相手と長い時間見つめ合った。
いや……実際はほんの数秒だったが、ルシエルにとってかなり濃厚な時間だった。
不意に、ルシエルの身体が何かを訴えようとピクリと熱を持った反応を示す。
今世での初めてのその感覚に、ルシエルは大いに焦った。
(……っ!何考えてんだか!とりあえず離れなきゃ!)
そう思って相手の胸を押し退けようとした瞬間。
再び唇が塞がれた。
それは先程の探るようなものではなく、意思を持って求められているようなキスだった。
「…んっ!」
思わず漏れ出た自分の声に驚く。
(なんでっ……ってゆーか!なに…これ!なにこれっ!)
ゾワリと何かが全身を駆け巡る感覚に我慢出来なくなり、ルシエルは今度こそ相手の胸を力一杯押した。
身体が離れたその隙に、ルシエルは一目散にその場から逃げ出した。
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