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そして、事件は起こる …5
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屋敷へと帰る馬車の中、ルシエルは自分の身体を抱いて震えていた。
そっと唇に触れると、先程の事を思い出して身体が疼く。
(男に…っ!--キスされたっ!!)
家族以外からのファーストキスを、まさか同じ男に奪われるなんて!!と、うな垂れる。
「ルシエル様?どうされたのですか?」
先程からコレットは、心配そうにルシエルの様子を伺っていた。
ルシエルと落ち合った時は、彼の真っ赤に染まった頬を見て、思わず悶えそうになったのだが。
「な、んでもないっ!!……あ、いや、いつもの頭痛だからっ」
思わずコレットに当たりそうになったルシエルは、咄嗟に嘘をついた。
「大丈夫ですか?お薬、飲まれますか?」
コレットがルシエルが常備している頭痛薬を取り出す。
「いや…いい。……とにかく、早く、帰って、寝たい」
「左様でございますか?…では、御者に急ぐよう伝えましょう」
身体が震えるのは、ショックからなのか、寒さのせいなのか。
顔は熱いが、背筋はゾクゾクするのをルシエルは感じた。
男同士でキスなんて!と思っているのに、それを拒否する事のできない自分がいる。
何かが頭の中にモヤのようにかかって、その感情がハッキリと表に出ず、ルシエルは苦しんだ。
謎の感情が出ては消え、出ては消え…と忙しくルシエルの頭と心を揺さぶる。
家に帰り着くと、ルシエルは着替えもそこそこにベッドへと潜り込んだ。
途中、帰宅したミシェルが様子を伺いに来たが、誰にも会いたくなくて、寝たふりをした。
今日の事を誰にも話したくなかったし、ミシェルには何かあったとすぐに気付かれてしまいそうだったから。
なにより、誰かに話して"それ"が事実になる事が嫌だった。
なんだかんだと頭で否定しつつも、ルシエルは分かっていた。
分かっていたけど、認めたくなかった。
男にキスされた事がショックだったのではない。
キスされて、曲がりなりにもときめいてしまった事がショックだったのだ。
--僕は、男が好き、なのか?
それを認めてしまったら、自分はきっと不幸になる。
そう。……前世のように。
「…っぁ!」
ルシエルは再び頭痛に襲われる。
(そうか。思い出したくない記憶だから、俺の中のどこかがそれを拒んでいるんだ)
いつものように思い出すのを拒もうと思った。
けれど、今日初めて感じた温かい唇が、力強く腰に回された手が鮮明に蘇って、それをさせなかった。
おそらく前世でも味わったことのない、快感。
「う、あぁ…っ」
ルシエルは、突然襲って来た前世の膨大な記憶に飲まれて、気を失った。
それから、ルシエルは原因不明の熱にうなされることとなったのである。
夢と現実を……前世と今世を行ったり来たりしつつ3日。
新たな前世の記憶を持って目覚めたルシエルは、以前と同じく涙した。
ルシエルが今まで思い出さなかった前世の記憶は、自分が同性愛者だった事だ。
ルシエルの前世……マモルは田舎に住む平凡な男だった。
中学生の時、自分は周りと違うと感じた。
エロ本やエロ漫画に興味が無いわけではない。
が、目が行くのは女の方ではなく、男の方だった。
同じ部活の先輩に憧れていたが、後で思えばそれは恋心だった。
高校になると、好きだと実感できる人と出会う。
同じクラスの……男だった。
その人とはいつも一緒にいて、なんでも話せる仲だ。
高三の夏、その相手に告白。
それからマモルの平凡な人生は失われた。
周りからは距離を置かれ、親友も失った。
高校を卒業すると、逃げるように東京で就職する。
その後、出会ったのが「二次元」である。
友達のいない寂しさからゲームや漫画の世界にハマった。
ネット上なら友達も出来た。
同じ趣向を持つ友達も見つける事が出来た。
そんな友達から教えてもらったのが、恋愛シミュレーションゲームである。
女性向けゲーム。
しかし、男が好きなマモルには夢のようなゲームだった。
現実では出来ない、男との恋愛が楽しめた。
いくつかプレイした中でハマったのが「恋の花」とかなんとか言うゲームだ。
ゲームの内容と共に、ルシエルは重大な事を思い出した。
ルシエルは、生まれ変わったこの世界を知っている。
そして、これから何が起こるのかを。
記憶が正しいのであれば……
この世界は、ルシエルが前世でハマった、恋愛シミュレーションゲームの世界だ。
それに気付いたルシエルは、さらに3日、寝込むことになったのである。
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