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悪役令嬢の弟に転生したようです …2
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「ルゥ!」
いつか見たのと同じ。
ミシェルが慌てたように部屋に駆け込んできて、ルシエルに抱きついて震えた。
「あぁ!目覚めて良かった…っ!大丈夫?ごめんね?ごめんね!私が無理矢理パーティなんかに行かせたからっ」
ミシェルは、自分が無理矢理パーティに行かせたせいで、ルシエルが体調を崩したのだと思っていた。
「う…ん。ミィのせいじゃ、な、よ。だぃじょ、う」
大丈夫!と元気に答えたかったのに、ルシエルは声が掠れてうまく出せなかった。
「まぁ!ルゥ、声が掠れてるわ。痛いの?ジャック、お医者様はなんて仰っているの?大丈夫なの?」
ミシェルに尋ねられて、側に控えていたルシエルの従事、ジャックが答える。
「えぇ。先程診ていただきましたが、どうやら声変わりのようです。心配ないとのとこでございました」
「声変わり?そうなの?…他は?頭痛は?どう?」
「だぃじょ…だよ」
ミシェルの自分を心配する顔を見て、ルシエルは泣きたくなった。
この優しい姉が、もしかしたらこれから不幸に陥るかもしれないのだ。
悪役令嬢になるなんて、到底想像も出来ないが。
「まだ熱っぽい顔をしてるわ。ほら、休んで?起きたらまたお話ししましょ?」
「ん」
ルシエルは、潤みそうになったのを誤魔化す様にその眼を閉じた。
「じゃ、私、これから出かけなきゃならないから、もう行くけど……帰ったらまた様子を見に来るわ。ジャック、くれぐれもルゥのことよろしくね?」
「かしこまりました」
ミシェルが部屋を出て行ったあと、ルシエルは枕に顔を埋めた。
「ルシエル様、また頭痛ですか?」
ジャックがルシエルに心配そうに訪ねる。
ジャックはルシエルの二つ上の16歳だ。
このルーズベルト家の使用人の子供で、小さい頃から一緒に過ごしており、気付いた時にはルシエル専属の従事として仕えていた。
ルシエルには言えないが、ジャックは数年前までルシエルの事が、大がつくほど嫌いだった。
偉そうな態度で、母を困らせているのを見るのが本当に嫌だった。
自分も、明らかに見下した様な態度で手足の様に使われていた。
ルシエルが馬車に轢かれそうになって寝込んだ時なんて、内心ザマァとほくそ笑んだくらいだ。
それがどうしたことだろう。
事故の後目覚めたルシエルは、全く別人の様になってしまったのだ。
母を含む使用人達への態度は一変し、ジャックにも無理を言わなくなった。何より何かした事に対してお礼を言われる様になったのには驚いた。
今まででは考えられない事だ。
ルシエルにつられる様にミシェルの態度も柔らかくなっていき、二人とも接しやすくなったと、使用人の間で話題が尽きなかった。
それから……
ジャックはすっかりルシエルの事が好きになった。
見下した態度はすっかり改められ、従事どころか友達のように接してくる事もある。
元々、博識なこともありルシエルの話は面白かったが、それを友達のような態度で話しかけられ、意見を求められるのはとても楽しかった。
母の誕生日には、一緒にサプライズも準備してくれた。
曰く「家族は大事に!」だそうだ。
ジャックはいつしか「この人に一生仕えたい」と心から思うようになっていた。
そんなルシエルは、馬車の事故から頭痛持ちになってしまった。
頭でも打って、何か病気を抱えたのだろうかと、ジャックは常に心配している。
「だいじょ、だよ。頭痛は、もう、ない」
「そうですか?本当に?」
ジャックが優しく頭を撫でた。
ジャックは従事ながらも、たまにお兄ちゃん風を吹かせる。
「ん。怖い夢、見た、から。気になって……」
「どのような?」
「ミィ…が、ね……」
「ミシェル様が?」
思わず、兄貴のようなジャックに胸の不安をぶちまけそうになったルシエルだったが、慌てて喉元で飲み込んだ。
言える訳がない。
ここは前世でやったゲームの世界だと話して、誰が信じてくれるだろうか。
また医者を呼ばれるに違いない。
「いや……なんでも、ないょ」
ルシエルのその言葉に、ジャックは「うーーん」と何かを考えるように唸った。
「ミシェル様の怖い夢を見られたのですか?……実は、まだ確定ではないのですが、ミシェル様にはとても良い話があるのですよ」
「ーーえ?」
ミシェルの名前に、ルシエルは顔を上げた。
ジャックは嬉しそうに話し始める。
「ミシェル様は、第一王子のアルフレッド殿下と婚約が決まりそうなのです。本当に喜ばしい事です。なので、怖い夢はきっと杞憂に終わりますよ。そうそう、ミシェル様もこの話に乗り気でーー」
「え?」
『アルフレッド殿下と婚約』
その言葉に衝撃を受けたルシエルには、もうジャックの言葉は届いていなかった。
ゲームと同じ状況が、準備されようとしている。
ゲームのスタートはいつだったか。
アルフレッド攻略は、どんな内容だったか。
それらを思い出す必要がある、とルシエルは焦った。
ルシエルは、眠るからと言ってジャックを下がらせ、思い付く限り、ゲームの内容を書き出す事を始めた。
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