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悪役令嬢の弟に転生したようです …4
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それから一週間ほど経ったある日、アルフレッドがルーズベルト家に挨拶に来ることになった。
その日は朝から慌ただしく準備がされていた。
ルシエルは特に何もする事はなかったが、朝から落ち着かず、前の日も緊張で眠れないほどだった。
何せ、前世、想っていた相手だ。
ただその相手は、ミシェルを不幸にするかも知れない訳で、ルシエルは複雑な感情に揺さぶられていた。
約束の時間通りに馬車の到着の知らせを受け、家族全員で玄関へと迎えに出る。
馬車から降りたアルフレッドの姿を目にした途端、ルシエルは泣きそうになった。
--あぁ。ゲームのイラストと良く似てる!
何せ、前世で死ぬ間際に思い浮かべた相手だ。
鼻筋の通った精悍な顔付き。
長めの前髪をフワリと横に流した金色の髪。
ゲームのデータによると、182センチの身長。
広い肩幅にスラリとした手足。
ゲームでは赤っぽい軍服を着ていたが、今日は白の軍服だ。
これはこれでよく似合っている。
一見、人を寄せ付けないような王族らしい雰囲気を纏っているが、本当はとても繊細で、花を愛する優しい人だということを、ルシエルは知っていた。
ゲーム通りならば、の話だが。
「急な訪問にも関わらず、出迎えまでしていただき、感謝します」
そのアルフレッドの声に、ルシエルの心臓は大きく跳ねた。
初めて聞いたはずなのに、なぜか聞いたことのある声だと思ったのだ。
「いいえ。本日はお越しいただきありがとうございます。さぁ、とりあえず中へどうぞ」
唯一、アルフレッドと面識のある父がハキハキと事を進めるのを、まるでドラマを見るような他人事の感覚で見ていた。
アルフレッドの話し声は、ゲームで聞いたものだったろうかとルシエルは考える。
が、すぐに違うと結論が出た。
何せ、何度もプレイしたのだ。
似ているが、どこか違う。
「ルシエル?」
ルシエルの異変に気付いた母が、ルシエルの腕をそっと突く。
「えっ?あ、うん」
母の言葉に我に帰り、慌てて皆に着いて行く。
その後、応接室で家族紹介がされ、アルフレッドが改めて挨拶をするのを、ルシエルはまたも他人事のように眺めた。
(本物……本物だ)
憧れの王子が、動いて、喋っている。
父に紹介された時は、目も合った。
二次元ではない、リアルに存在しているアルフレッド王子が目の前にいる。
その事に夢のような心地になっていた。
父が始めた雑談が双子の話になった時、再びアルフレッドと目が合った。
アルフレッドがルシエルを見るたび、ルシエルは居た堪れない気持ちになって、目線をテーブルのティーカップに落とした。
一言でカッコいいその見た目。
洗練された物腰。
余裕のある表情。
女など引く手数多だろうと容易に想像できる。
いや……男にだってモテるだろう。
なにせ、前世のルシエルがハマったのだから。
ゲームの中で愛を囁いてくれたアルフレッドのとろける様なイラストを思い出す。
あのイラストの様な顔を、これから誰に向けるのだろうかとルシエルは考えた。
(せっかく出会えたのに、結ばれない運命なんて……)
そんな事が一瞬頭をよぎったが、ルシエルは紅茶を飲み干してその想いを頭から押し出した。
ここは現実だ。
ゲームとは違う。
自分はゲームのプレイヤーではない。
一個人のルシエルとして、ここに存在している。
気になることは山の様にあるが、ゲームの事ばかり気にしてはいられない。
自分と同じようにリアルに存在しているアルフレッドを見て、そう思った。
アルフレッドは姉の婚約者であり、自分はその弟。
今はそれが全てだ。
ふと、アルフレッドが紅茶を飲むのが目に入った。
スラリとした長い指でカップを持ち上げて、その淵に唇を付ける。
(あ、れ--?)
アルフレッドのその行動を見て、ルシエルの胸は大きく高鳴った。
その唇に、既視感を覚えたから。
ルシエルが知っている唇と言えば、一つ。
以前、ミシェルの代わりに出席したパーティでキスした相手だ。
まさか!とは思うが、改めてアルフレッドを見ると、重なる部分が多いにある事に気付いた。
金髪と、その身体つき。
そして何より、声、だ。
その事実に気付いた時、ルシエルの指先は震えだした。
婚約の話は向こうからやって来たとのこと。
しかも、あのパーティの数日後。
あの仮面の男は、アルフレッドだとルシエルは確信した。
(僕は、もしかしたら……なんて事をしたんだ!!)
アルフレッドはこの国の王子だ。
あの時のルシエルの足取りを掴むなど、容易な事だろう。
つまり、アルフレッドはあの夜の相手をミシェル・ルーズベルトだと知り(--いや、実際はルシエルだったが)こうして婚約に至った可能性がある。
理由は分からないが、もしかしたら、あの夜の責任を取ろうとしてくれているんじゃないだろうかと、ルシエルは思った。
これからミシェルを不幸にするかもしれないこの婚約は、自分が原因を作っていただなんて。
その場の会話など全く耳に入らなくなったルシエルは、なんとか気力だけでその場を持ち堪え、アルフレッドが帰った後は、一人自室に引きこもった。
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