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ルシエルの策
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アルフレッドが家に来た日、ルシエルは頭痛がすると嘘をついて、夕飯も食べずにベッドに突っ伏した。
いつの間にか寝ていた様で、気付けば朝日が窓から差し込んでいた。
朝日の眩しさに目を細めながら、ここは現実の世界なのだとルシエルは改めて実感する。
ただ現実的でないのは、前世でやったゲームのストーリーが始まろうとしている事だ。
登場人物の「アルフレッド」と「ミシェル」が婚約した事が、それを証明している。
もし、主人公に位置する人間が存在していれば、今後、ゲームの様に誰かと結ばれるのかもしれない。
そして、その相手はアルフレッドである可能性がある。
その場合、ミシェルはとうなるのか……
それを考えて、ルシエルの身体は震えた。
もし、何も起こらなかったとしても、ストーリー中でミシェルを愛していなかったアルフレッド。
今現在、ミシェルを嫌っているということはないはずだ。
何せ、婚約は向こうから来た話なのだから。
つまり、ゲームが始まるまでの間に、何かあるという事になる。
「あー……うぅ」
今、ルシエルが考えられる事と言えば、あのパーティの夜の相手がミシェルでは無いと気付く事だ。
キスの事をミシェルに話そうかとルシエルは悩んだ。
だが、それが引き金となって婚約に至ったとミシェルが知ったらどう思うだろうか。
「あーー。考えても分かんねー。俺、どーすればいいんだよー……」
枕に顔を埋めて、前世の言葉でルシエルはそう呟いた。
とりあえず、最悪の事態を避けなければ、という考えが浮かぶ。
ミシェルが主人公を虐めず、主人公の育てたバラを滅茶苦茶にする事を辞めさせるのだ。
「そうだ。ミシェルを悪役令嬢にしなけりゃ良いんだ!」
ルシエルの頭に一つの道筋が見えた。
単純だが、それしか方法はない、と。
ミシェルが悪役令嬢でなければ……アルフレッドがミシェルの事を悪く思う事はないだろう。
婚約破棄にもならず、修道院行きも阻止できる。
--かもしれない。
では、ミシェルが虐めをしないようにするにはどうすれば良いか。
これはなるべく、自分が見張るしか無いとルシエルは思った。
ルシエルの知るミシェルが、ゲームでやっていた様な悪口を吹聴したり、人前で主人公を貶める様な事をしたりするとは考え辛い。
が、恋は盲目という言葉を前世のルシエルは知っていた。
これから、ミシェルがアルフレッドに恋をして変わるという事も想像される。
恋をする事は、止める事が出来ない。
でも、虐めを止める事は出来るかもしれない。
高等部の三年生になったら、なるべくミシェルを見張ろうと心に決めた。
あとは、バラを滅茶苦茶にする出来事。
この件も見張るしかないが、ふとある考えがルシエルの頭に浮かんだ。
「ミシェルが花を好きになれば、アルフレッド王子と話も合うだろうし、アルフレッド王子の好きな薔薇園の花を滅茶苦茶にする事をしなくなるかもしれない!」
そうと決まれば、即行動だ!という事で、ルシエルはベッドから飛び起きた。
その日の昼食の席で、ルシエルはミシェルに「一緒に花を育てよう」と持ちかけた。
しかし、ミシェルからの返事は良いものではなかった。
花を好きになるには、育てるのが良いだろうと思ったルシエルだったが、ミシェルが虫嫌いなのを忘れていた。
土いじりにも植物にも、虫が付き物だ。
そこでルシエルが考えたのが「自分が花を育てて、ミシェルに興味を持ってもらう」という事だ。
善は急げという事で、さっそくその夜、父に庭の一画を自由にさせてもらえるよう頼んだ。
父は翌日、ルシエルのために裏庭を好きにして良いと言う返事をくれた。
ルーズベルト家の専属庭師にも、ルシエルに手を貸すように伝えられた。
ルシエルは、その庭師達から「最初は簡単な花を育てては」と勧められたが、それを断って、いきなり薔薇を育てる事にした。
何せ、花は今日明日で咲くものではない。
しかも前世の知識で、薔薇は育てるのが難しいということを知っていた。
ならば、最初から薔薇にチャレンジしようと、ルシエルは思ったのである。
ゲームを思い返せば、ミシェルが王宮の薔薇園を破壊する事件を起こすのは、アルフレッドの誕生日の前日。
アルフレッドの誕生日はルシエル達の卒業前だ。
その時期まで、あと3年半程しかない。
バラを好きになってもらって、アルフレッドと語り合えるくらいになってもらわねば!とルシエルは気合を入れて、その日から裏庭の芝生を薔薇園に変えるべく精を出すのである。
最初は、ルシエルの気まぐれですぐに飽きると思っていた庭師達だったが、ルシエルが自分たちと同じように泥まみれになって必死で世話をする姿に心打たれた。
ルシエルからすれば、姉の人生がかかっているのだから、必死になるのは当然だったが。
間も無く庭師は皆、ルシエルに知識やアドバイスを与え、手を貸すようになった。
花を育て始めてから、ルシエルに変化が訪れた。
もともと、ミシェルのために始めた園芸だったが、やればやるほど楽しくなっていき、ルシエルはどんどんハマっていった。
ゲームもテレビもない世界で、日々変化する葉の数や蕾の大きさが、大きな楽しみとなった。
この薔薇が無事に開花したら、ミシェルにプレゼントする約束もした。
それをミシェルがとても喜んでくれたので、さらに一生懸命に薔薇の世話をするようになった。
ちなみにミシェルは、ルシエルと遊ぶ時間が減った分、読書に嵌った。
半年が過ぎ、ルシエルが植えたバラが最初の開花を始めた頃。
ルシエルとミシェルは15歳になり、王立学園高等部へ入学することとなる。
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