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クラブ活動 …2
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放課後、読書クラブへ行くミシェルと別れて、ルシエルは校舎の裏に来ていた。
ランバートには裏の花壇と言われたが、ここに来るのは初めてでキョロキョロしながら歩いていると、一人の男子学生がうずくまっているのが見えた。
どうしたのかと近寄ると、足音に気付いたその男子生徒がルシエルの方を振り向いた。
「あ、ルーズベルト…様?」
そう言いながら立ち上がったのは、ルシエルのクラスメイトだった。
手にはスコップを握っていて、どうやら足元の土をいじっていたようだ。
「えっと……」
ルシエルは焦った。
向こうはこちらの名前が分かるのに、ルシエルは名前が出て来なかった。
「失礼しました。私は同じクラスのジロー・エルフェ。エルフェ辺境伯の三男です」
「あ、私はルシエル・ルーズベルトです。申し訳ないです。同じクラスなのに、名前が出て来なくて…」
ルシエルは素直に謝った。
顔を合わせた事のある相手の名前と顔を覚えていないのは、失礼に当たるからだ。
「いいえ!覚えていらっしゃらないのは当然です!私、影が薄いのでっ!」
胸を張って言うことでは無いのに…とルシエルは思ったが、敢えて突っ込むのはやめた。
お世辞にも比定できない、目立たない感じの顔のパッとしない少年だったからだ。
「ルーズベルト様は、何か用事があってこちらにお出でになられたのですか?」
「はい。ランバート先生に呼ばれて…」
「ランバート先生ですか?」
ジローが、首を傾げたタイミングで、彼の後ろからランバートがやって来た。
「あぁ!来てくれたんだね!えーと……ごめん。名前を聞いてなかったな」
「ルシエル・ルーズベルトです」
ゲームとは違う気さくな雰囲気に戸惑いながらも、ルシエルは返事をした。
「あぁ、君がルーズベルト卿の息子か。美人の双子が入ったと言う噂はよく耳にしたよ」
ミシェルだけでなく自分も美人だと言われたようで、居心地の悪さを感じたルシエルだったが、それに気付かないフリでやり過ごした。
確かにルシエルとミシェルは似ていて、ミシェルは美人だが、自分はその括りでは無いとルシエルは思っていた。
実際は二人とも美人だと噂されていたのだが。
「ランバート先生、ルーズベルト様は私と同じクラスなのです。ランバート先生、もしかしてルーズベルト様は…」
ジローはそう言ってルシエルを見た。
「そうか。同じクラスか。…あぁ、園芸クラブにスカウトした」
「えっ?スカウト?そうなんですか!」
嬉しそうにニコニコ笑うジローとは対照的にルシエルは困惑した。
「えっ?園芸クラブ?」
困惑するルシエルを他所に二人は話し出す。
「今日の昼休みに中庭のコスモスを眺めていたのを見かけてね。それで声をかけたんだ」
「わ!嬉しいですね!あの花に興味を持ってくださるとは!あぁ、あの花を、初めて見た時の感動!私も思い出します〜」
そう言って、ジローは夢見るような顔をした。
「いえ、あの、園芸クラブって……」
「それでスカウトされたのですね!私と同じですね!」
「そうだ。社会に出れば、好きな事が出来る時間が限られるからな。悔いのないように何でもチャレンジしてみる事だ」
「はい!ルーズベルト様とご一緒出来るとは光栄です!」
「えっと!すみません!話についていけないのですが」
ルシエルが必死に二人の話に割って入った。
「ん?園芸クラブに入る話だが?そのためにここに来たのでは?」
「いえ!私は、そんなつもりは…」
ルシエルのその言葉に、二人は一瞬固まった。
それから「あぁ…」とランバートが口を開いた。
「そうか。申し訳ない。説明していなかったな。私は園芸クラブの顧問をしている。まぁ、私の専門は薬草だが…。珍しい草花にも興味があってね。コスモスもその一つさ。それで、コスモスに興味を持ってくれた君に、是非園芸クラブに入ってもらいたいと思ってね。それで声をかけさせてもらったんだよ」
「えっ?ランバート先生、なにも説明せずにただ呼ばれたんですか?」
ジローが残念な顔をしてランバートを見た。
「いや、あの時は急いでいてね。……で、どうかな?もし興味があるなら、入部してみないか?」
突然の話に、ルシエルは驚いた。
まさか昨日のランチタイムに話題になった園芸クラブの先生から、直々に誘われる事態になるとは思いもしなかったからである。
「いや、えーっと、お誘い頂けて嬉しいですが……」
昨日ミシェルに話した通り、クラブに所属するつもりはなかった。
「ん?そうか、てっきり興味があるのかと思ったが、違ったか……」
ランバートが残念そうな顔をした。
「あっ、いえ、興味が無いわけではないですが……」
ルシエルが思わずそう口走ると、ランバートとジローが、揃って期待するような目を向けた。
後ろに花が舞うような幻覚まで見えてしまうほど、キラキラさせた目を向けられたルシエルはついつい流されてしまった。
「あの…そうですね……仮、なら……」
「そうか!よし、じゃ、ここにサインを」
ランバートが、どこから取り出したのか、入部届と書かれた書類とペンをルシエルに差し出した。
それに戸惑うルシエルだったが、ジローの後ろに今度はブンブン振られる尻尾の幻覚が見えて、やっぱり辞める、とは言えなくなった。
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