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クラブ活動 …5
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アルフレッドがその場に片膝をついて、ラベンダーを手に取った。
撫でるような手つきをした後、一本手折る。
それを鼻に近付けて匂いを嗅ぐ仕草をして、大きく息を吐いた。
その姿が、何だかとても小さく見えたルシエルは、思わずこんな事を聞いてしまった。
「アルフレッド様は、なぜその仮装パーティを気にしていらっしゃるのですか?……なぜ姉の代わりにパーティに出た方を探していらっしゃるのですか?」
その質問に、アルフレッドが切なげに口端を上げた。
アルフレッドは何故その女を探しているのか。
その理由を婚約者の弟に言えないという事は、その女との仲を疑われても仕方がないのだが……けれど、そうしてでも知りたい理由があるのだろう。
(一度のキスで恋した……は、ないよな)
仮面をつけていた上に、言葉を交わして触れ合ったのはほんの少しの時間だ。
その一瞬で恋に落ちるなんてあり得ない。と、ルシエルは思った。
では、アルフレッドのこの行動の理由は何だ。
あの日の行動に責任を取るためか。もしくは、誰かに言いふらされたりするのを恐れているのか。
その答えは、ルシエルがいくら考えても出て来る事はなかった。
ただ、その背中を見ていたら、ふと寄り添いたい気持ちに駆られたルシエルは、そっとアルフレッドの隣にしゃがみ込んだ。
「いい香りがしますね」
「あぁ……これはラベンダーと言ってね。三年目にしてやっと紫の花が咲いたんだ」
そう言って花を見るアルフレッドを見て、ルシエルはゲームの中のアルフレッドのセリフを思い出していた。
『花は愛情をかければちゃんと応えてくれる。その美しさに裏切られる事はない』
一言一句覚えているわけではなかったが、そのような内容だったと思い出した。
それは、王太子としての立場の辛さを花で表したもの。
花は裏切らないが、人は……と言うところである。
そんなしんみりしたところに突然、ルシエルの目の前に「ブブブ!」と大きな羽音を立てて蜂が飛び込んで来た。
「わっ!」
突然の事でビックリして、ルシエルは目をつぶって尻餅をつく。
「大丈夫?」
それ以上倒れないように、アルフレッドか咄嗟にルシエルの背を支えた。
「スミマセンっ!だいじょ…っっ!!」
ルシエルが閉じていた目を開けると、そこにはアルフレッドの顔のアップあって、驚いたルシエルは勢いよく頭を後ろに引いてしまった。
「おっ、と」
さらに後ろに転がりそうになったルシエルをアルフレッドがグッと支える。
その状態で、ルシエルは固まった。
(近い!近い近い近い!ってゆーか、触られてる!)
そして……何故かアルフレッドも固まった。
テンパっていたルシエルがその事に気付くより前に、アルフレッドが先に気を持ち直して立ち上がった。
「えっと、大丈夫?」
そう言って差し出された手を見て、ルシエルはさらにテンパる。
(えっ?これって、この手って取っていいのっ?王太子殿下の手だよ?!)
ただ、迷っている間もその手は差し出されたまま。
それを無視して立ち上がる事も出来ず、ルシエルは恐る恐るその手の上に自分の手を重ねた。
すぐに、ルシエルの手がアルフレッドの大きな手でグッと包まれて、立ち上がるのをサポートするように引き上げられる。
ルシエルは、アルフレッドに体重を預ける事が恐れ多く、足を踏ん張ってえいっと立ち上がってしまった。
「わっ!」
それがいけなかった。
勢いがつき過ぎて、ルシエルは前につんのめってしまったのだ。
結果、ルシエルはアルフレッドの胸に飛び込む形になり、アルフレッドに抱きとめられた。
その状況に、ルシエルは思わずトキめく。
広い胸、力強い腕、そしてほのかに香る良い匂い。
あの仮面パーティの夜は頭痛でそれどころではなかったそれらを感じられて、顔に熱が集まる。
(ヤバい、どうしよう、どうしよう)
パニックになりそうになったところ、アルフレッドの手が僅かに動いて、ルシエルはハッとなった。
王太子を押し倒さん勢いで飛び込むという不敬を働いてしまった事に気付いたのだ。
「も、も、申し訳ありません」
右手は握られ、腰に手を回されている状態のルシエル。
本当ならその胸をグイと押して離れたかった。
けれど、これ以上無礼を働くわけにもいかず顔を上げるに留まった。
「……いや。問題、ない」
アルフレッドがゆっくりと体を離した。
そして、何かを探るようにルシエルを見る。
「………細い、な。ちゃんと食事は取っているのか?」
2、3度、口を開けたり閉じたりしたアルフレッドが、そんな事を言った。
その言葉に、ルシエルの顔は真っ赤になった。
決して気を悪くした訳ではなく、身体を触られた事に対する羞恥心からである。
「えっ?あっ!ハイ!お陰様でっ!」
「……そうか」
そう言って黙ったアルフレッドの様子がおかしい事に、ルシエルはようやく気付いた。
「あの、アルフレッド様?」
「何だ?」
「あの…手、を……」
アルフレッドがゆっくりと下を向く。
先ほど、腰に回していた手は離していたが、握った手はそのままだった。
「あっ、すまない」
「い、いえ……」
気まずそうに手を離したアルフレッドは、何かを考えるように首をひねる。
そして、ルシエルの腰に回していた手を、何かを確かめるようにぎゅっと握りしめた。
何も言わないアルフレッドとルシエルの間に、変な空気が流れる。
その空気を破ったのは、慌ただしく戻って来たジローだった。
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