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学園での噂 …3
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黄色い歓声に応えるように、アルフレッドがアリーナを見渡して手を挙げた。
「アルフレッド様、強いわね」
「うん。……本当、カッコいい」
ルシエルが思わず心の声を漏らしてしまうほど、アルフレッドはカッコ良かった。
筋肉隆々と言う訳ではないため武人には見えないが、無駄のない素早い動きで相手を翻弄していく様は、見ているものを魅了するような戦い方だった。
ルシエルはアルフレッドに吸い寄せられるようにその姿を目で追う。
今くらい、その他大勢の一つとしてこの視線を投げかけても良いだろうと、頭の片隅で誰にともなく許しを請うた。
その視線の先にいたアルフレッドが、二人がいる方向を見た途端、動きを止めた。
(えっ?)
アルフレッドと目が合ったような気がして、ルシエルの心臓は大きく跳ねた。
さらにアルフレッドがこちらに向かって微笑んで、ギュウッと心臓を掴まれたような気持ちになる。
今まで避けてきたけれど、心は正直だ。アルフレッドの笑顔が嬉しかった。
続けて、黄色い声が湧き上がったのに気付く。
その歓声に、ルシエルはハッと我に帰った。
あの人は、隣にいるミシェルの婚約者なのだ、と。
今のはミシェルに笑顔を送ったのだ、と。
そんなアルフレッドにいちいちドキドキしてしまう自分を、ルシエルは殴りたくなった。
「ミィは、アルフレッド様と上手くいってるんだね」
そう、ミシェルにだけ聞こえる声で囁くと、ミシェルは「え?」と返事した。
それに「え?」と返すルシエル。
ルシエルは、アルフレッドの笑顔はミシェルに向けたものだと思い、ミシェルもそれを分かっているのだと思っていた。
けれどミシェルのこの反応は何だろう。
二人の間に、一瞬だが変な沈黙が流れた。
その時、アリーナのアルフレッドは、遠目にもその姿に目を奪われていた。
あの日から何とか接点を持とうとしていた相手を見つけて、今すぐ駆け寄りたい衝動に駆られた。
と同時に、この試合を見に来てくれた事に嬉しさがこみ上げてくる。
アルフレッドが無意識のうちに観客席に笑顔を向けた事により女性達が騒ついたため、アルフレッドは我に帰った。
そして、誰に聞かせるでもなく咳払いを一つして、控え席に戻る。
「顔が、ニヤけていますよ」
席に戻ったアルフレッドにレオンがそう声をかけた。
「っ。そんなことは、ない。……いや、勝てたから嬉しいのだ」
「そうですね。おめでとうございます。ただ、私はてっきり、別の理由でニヤついているのかと……」
「なっ!そのような事は、ない」
そう言って腕を組み、次の試合に目を向けたアルフレッドを見て、レオンは思わず微笑んだ。
アルフレッド本人は気付いていないが、これはまるで恋の病のようだと、そう思った。
そうでなければ、明らかに避けられているにも関わらず、その相手を求めて止まない状況など生まれるはずはないからだ。
先ほど、アルフレッドが笑顔を向けた先にいた人物。
そこにいた人物……ルシエルに気付いたレオンは驚いた。
顔を見ただけで笑顔になるとは、アルフレッドはどれほどルシエルを求めているのかと、レオンは一人唸った。
あの日、アルフレッドからルシエルの話を聞いた日、アルフレッドの顔を見たレオンは、つい先に進むよう焚きつけてしまったが、まさかこんなふうに拗らせるとは思っていなかった。
ランチに誘っても来ない。園芸クラブに入ったらしいのに、クラブで会う事はない。たまに廊下ですれ違う時は、アルフレッドが話しかける前にそそくさと去って行く。
これを避けられていると言わず、何と言おう。
かと言って、個人的に呼びつけるような事をアルフレッドはしなかった。
いざ会ったところでどうしていいか分からなかったのだ。
何せ、確かめる内容が内容だ。
ルシエルがアルフレッドの求める相手なのかを確かめる、方法も口実もない。
そんなこんなで、何も進展がないまま今になったが、ある意味、進展しているとレオンは思っている。
それは、アルフレッドの「気持ち」だ。
身体が求めるとかいう問題だけかと思っていたが、今のアルフレッドを見ていると、そんなの関係なくルシエルにご執心のようだからだ。
ただ気になっているだけなら、顔を見ただけであの様な締まりのない笑顔が出るわけがない。
「素直になれば宜しいのに」
ミシェルでなく、ルシエル本人をランチなりお茶なりに誘えばいい。
理由など必要ない。
レオンはそう思っていた。
しかし、アルフレッドにとってはそう簡単な問題ではないらしい。
「……何のことだ」
アルフレッドは素っ気なく答えたが、目線は客席へと向かっていた。
本人に自覚はない。
学園ではいつもルシエルの面影を探してしまうこと。
遠目でも目ざとく見つけては、目で追ってしまうこと。
友人やミシェルに向けるその笑顔を、自分にも向けて欲しいと思ってしまうこと。
それらを無意識に行っていた。
「ゴホン。……それより、そんな余裕をかましていていいのか?」
「え?」
話をすり替えたアルフレッドにレオンは首を傾げた。
「次の相手は俺だからな?集中してないとケガするぞ」
「……それは、そうですね」
アルフレッドの言葉に、レオンは大きく息を吐いた。
どうすれば、アルフレッドの憂いを取り除けるのか。
どうすれば、ルシエルとアルフレッドを二人で会わせることが出来るのか。
もし、本人が恋と気付いたらどうなるのか。
もし、もしも……
どうしようもない未知数の未来を想像して、レオンは再びため息を吐いた。
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