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ルシエルの策、その2 …3
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(うわぁ。あのアルフレッドと二人きり!ヤバイ。マジヤバイ!)
ルシエルはテンパりながらも何とか裏庭にアルフレッドを案内すると、朝から準備していた内容を思い出しながら庭の説明を始めた。
頬が赤くなっている自覚があったから、なるべくアルフレッドの方は見ないようにして。
そんなルシエルの後ろを歩きながら、アルフレッドはルシエルの後ろ姿を眺めていた。
微かに見えるうなじからは仄かに色気を感じ、そんなに広くない肩幅には守ってあげたくなるような庇護欲を掻き立てられた。
そして、今は上着で分からないが、その下の細い腰を思い出したところで、アルフレッドは観念した。
(ルシエル君は、俺にとって特別な存在に違いない)
庭よりもルシエルの方が気になって仕方がない。
「--で、こちらが、私が育てているバラです」
立ち止まったルシエルに、アルフレッドは小さく咳払いをして目線を前に向けた。
その一画にはピンクの小ぶりなバラが咲き誇っていた。
「へぇ!ミニチュアローズだ。こんなに咲かせるなんて、ちゃんと手入れをしている証拠だね」
そう言って、バラを一輪手にとったアルフレッドにルシエルはキュンとせずにはいられなかった。
自分が育てたバラに、優しい目を向けるその姿を見ながら、ふと昨日考えたことが頭を過ぎった。
--アルフレッドとミシェルの婚約解消
それを実現するにはどうすればいいか。
考えた結果浮かんだのは、婚約することになった原因を取り除くことだった。
つまり、あの仮面パーティの人物は、ミシェルでなく自分だと伝えること。
伝えるなら二人きりの今しかない、とルシエルは思った。
(しかし、それを伝えたら、自分はどうなるだろうか)
王太子を欺いた罪で罰せられるだろうか?
しかしあれは仮面パーティで、あの時は王太子だと気付かずに接したのだ。
ただ、ルシエルは自分を女と偽ってあの場にいたのだから、それだけでも何らかの罪になるかも知れない。
とにもかくにも、ミシェルや家族に迷惑がかからないようにしなければ、とルシエルは拳を握りしめた。
「あのっ。アルフレッド様に、聞いていただきたい事があります」
急に神妙な顔つきで振り向いたルシエルに、アルフレッドは驚いた。
「どうした?」
「アルフレッド様は以前、仮面パーティの事について尋ねられましたよね?」
ルシエルの質問に、アルフレッドは動揺した。
「あ、あぁ……」
「ミシェルが出席していたか気にされていましたよね?」
「あぁ」
真面目な顔つきになったアルフレッドを見て、ルシエルはゴクリと唾を飲み込んだ。
そして、その場に勢いよく土下座した。
「申し訳ありませんっ!!」
「えっ?ちょっ?ルシエル君⁈」
「あの時、パーティに出ていたのは私なんですっ!!」
「ちょっと!…………えっ⁈」
アルフレッドが動きを止める。
「あの時……あの時、アルフレッド様に助けていただいたのは、ミシェルでなく、私なんです!色々あって、その、ミシェルのフリをして出席していました。大変申し訳ありませんでした!!」
ルシエルの告白に、アルフレッドは何の反応もできなかった。
それを、怒らせてしまったのだと思ったルシエルは、怖くて顔を上げれずに、更に額を地面に付けた。
「それで、その……っ、もし、あの日の事を気にされて、ミシェルを婚約者として選ばれたと仰るのなら、それは全て私が不甲斐なかったせいなのです。アルフレッド様が気になさる事は何もないのです!」
「……」
「私のせいで、二人が意に添わぬ婚約をした原因を作ってしまった事に関して、大変申し訳なく思っています。ですので、アルフレッド様には自由になっていただきたいのです!その……婚約をなかった事にする事は出来ませんでしょうか?」
「……」
何も言わないアルフレッドに、ルシエルは震えだす。
アルフレッドは言葉も出ないほど怒っているのだろう、と思った。
何せ、女だと思って助けた相手が男で、理由は分からないが……いや、例の噂を元にするなら、ちょっと味見された程度なのかも知れないが……口付けしたその相手が男と知れば、気分を害する事は間違いない。
「大変失礼な事をした事は承知しております!ですが、あの日のことはなかった事にしていただきたいのです。もちろん罰は受けます!ただ、ミシェルは何も悪くないです。家族も知らない事です。私一人が悪いのです!なので、罰は私一人に願います!」
ジャリ、と足音がして、アルフレッドが自分に近付いて来たことを感じて、ルシエルの肩がピクリと跳ねる。
「立て」
一言、アルフレッドがそう言った。
何をされるだろうか、殴られるのだろうか?そんな事を思った。
「本当に、申し訳、ありません……っ」
立てと言われたところで、すぐに立てるわけがない。
自分はミシェルを助けるのだ。ミシェルのために、何とかしなければならない。
そのために前世の記憶を持って生まれてきたのだ。
そう思いながら、ルシエルはもう低くしようのない体を、さらに低くした。
頭の上から、小さくため息が降って来る。
「立って」
最初の命令を聞かなかったから、ため息を吐かれたのだろうかと思ったルシエルは、ゆっくりと体を持ち上げた。
「ほら、とりあえず立ってもらえないと話ができない。……それとも僕もそこにしゃがめと言いたいの?」
「!!」
アルフレッドがどんな意図でそんな事を言ったのか分からなかったが、アルフレッドに跪かせる訳にはいかないと思ったルシエルは、慌てて立ち上がった。
立ち上がって、再び頭を下げる。
「申し訳ございませんっ」
再び誤ったルシエルに、アルフレッドは今度は大きなため息を吐いた。
「謝る必要はない。だから、頭を下げるな」
そう言われたところで、怖くて顔を上げれないルシエル。
「頼むから、顔を上げてくれないか?」
その声色が、本当に困った感じのものだったから、ルシエルは意を決してゆっくりと顔を上げた。
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