アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ゲームのセリフ
-
『君は、太陽の匂いがするね』
それを言われたルシエルは、頭の奥に痛みを感じた。
それは、前世を思い出す時に感じる痛み。
ルシエルはその言葉に聞き覚えがあった。
ゲーム中盤でアルフレッドが主人公マリーに言うセリフだ。
しかもその時点で好感度が高い時だけに言われるセリフ。
このルートを通らないと、ハッピーエンドにはならない。
そのようなセリフを、なぜ今ここで聞くのだとルシエルは思った。
(好感度が、高いということ?)
そんな考えが頭を過るが、それはないと思い直した。
自分は男で、パーティの夜アルフレッドを騙した人物だ。
嫌われることはあっても、好かれることはない。
父が財務省長官だからだろうか。
それとも将来の部下に対しての温情からだろうか。
何にせよ、アルフレッドに気を使わせたのだ。
そう思って、アルフレッドの様子を伺った。
「僕のせいだと言っても、君が納得しないのなら……君の言う通り、あのパーティの事はなかった事にしよう」
目線をそらして、アルフレッドがそう言った。
「え……あ……」
「あのパーティで何もなかったのなら、君は罪悪感を背負う事はないだろう?……婚約に関しては、今すぐどうこうできるものではないが……何か、考えよう」
「よ、よろしいのですか?」
「いい。だからもう気にするな。……この話は終わりだ。いいな」
ルシエルは戸惑いながらも、アルフレッドの真意を探ろうとその顔を眺めた。
アルフレッドがここまでしてくれる理由はなんだろう、と。
それに気付いたのか、アルフレッドがゆっくりとルシエルに目線を戻す。
アルフレッドが真面目な顔をして自分を見る目線に、悪意はないとルシエルは感じた。
理由は分からないが、あの日のことはなかった事に、つまり、許してくれるという。
「ありがとう、ございます……っ」
ルシエルは頭を下げた。
アルフレッドの優しさに感動しつつも、どうしても寂しさがどこかについて来る。
これでミシェルと婚約が解消されれば、ルシエルはもうアルフレッドとプライベートな場で関わることはなくなるだろう。
そんな事を頭の隅で考えた。
「しかし……タダで忘れる訳にはいかないな」
アルフレッドがポソリと呟いた言葉を耳にしたルシエルは身体を硬くした。
許してくれるとは言え、やはり、何か罰があるのだ、と。
「はい」
頭を上げて、次の言葉を待つ。
「また……学園の温室で会ってくれないだろうか」
「……は?」
ルシエルは何か聞き間違えたのだろうかと思った。
温室で会う事のどこか罰なのだろうか。
意図が分からず、アルフレッドを見つめ続けると、しかめっ面をしたアルフレッドに何故かふわりと抱きしめられた。
「また、花について君と話したい」
「っっ。わ、分かりました」
アルフレッドがどんな意図でそんな事を言っているのか、ルシエルにはさっぱり分からなかった。
しかし「あの日のことを忘れる」条件なのだと思うと、温室で会うことを受け入れざるを得なかった。
そして、冷静になったところで、ルシエルは改めて自分の状況を把握し、今更ながらアルフレッドに抱きしめられていることを認識した。
(きゃーーーー!!なんで抱きしめられてるのっ?!)
心臓がバクバクと早鐘を打つ。
アルフレッドに抱きしめられているという、夢のような状況に、頭が真っ白になる。
アルフレッドからは仄かに良い匂いがする。
石鹸なのか、ハーブなのか、嫌な匂いではない。
むしろ、もっと嗅いでいたいと思うほど好きな匂いだ。
たくましい腕、広い胸。無駄な脂肪は無く、服越しに力強い筋肉を感じた。
そして、触れたところから伝わってくるアルフレッドの熱が、自分の中の何かを呼び起こそうとした。
それがさらに心臓の音を大きくし、それを聞かれるのではないかと焦ったルシエルが身じろぎをすると、アルフレッドがゆっくりと身体を離した。
そうして、ルシエルの前髪をさらりと払う。
「赤くなってる……」
先ほど地面に付けていた場所をスルリと撫でられたかと思うと、あろうことか、そこにアルフレッドの唇が落ちてきた。
「〜〜っっ!」
アルフレッドのその行動に、ルシエルは顔が一気に熱を帯びるのを感じた。
唇を離して、ルシエルの顔を見たアルフレッドは、目を見開いたあとすぐに後ろを向いてしまった。
「……ッ。ゴホン。先に戻る。……いや、先に失礼する。見送りは結構だ」
アルフレッドはそう言って、足早に屋敷の中へと戻っていった。
「今の……なに?……なんで……」
ルシエルは思い出していた。
ゲームのアルフレッドが主人公マリーに『太陽の匂いがする』と言った後、彼女の額にキスをする事がある。
それは、この時点で好感度MAXの場合のご褒美挿絵に繋がるのだが……
ルシエルは何故自分がこんな事をされたのかと混乱してしまって、その場にへたり込み、アルフレッドを追いかけることはできなかった。
ただ、額にそっと手をやって、先ほど感じた唇の柔らかさを思い出して、泣きたくなった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
41 / 166