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温室
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それから、ルシエルとアルフレッドは週一回くらいの間隔で温室で会うようになった。
温室は、顧問のランバートが特殊な薬草を育てている事もあり、一般の生徒は立ち入り禁止になっていた。
そのため出入りするのはクラブ員のみだったし、ルシエルとアルフレッドが二人きりということも珍しくなかった。
お互い、仮面パーティの事はもちろんのこと、ルーズベルト家の裏庭での出来事は何も話さない。
自分達の育てている花や他のクラブ員の育てる珍しい草花の話が、会話のほとんどを占めていた。
会話と言ってもポツリポツリと話すくらいで、お互い土や葉をいじっている事の方が多かった。
会話がなくても居心地が悪いと言う事はなく、ルシエルはその時間に幸せを感じていた。
たまにふと、アルフレッドから額にキスされた日の事を思い出す。
あのキスにはどんな意味があったのだろうと気になって、その意味を問うてみたくなるが、そんな勇気は出てこなかった。
ルシエルは、アルフレッドのあのキスを、気まぐれか何かだろうと思う事にした。
あのキスの後、アルフレッドがフイと背を向けて去って行ったのがいい証拠だ。
きっと、あのキスに意味などない。
アルフレッドは人たらしで、誰にでもああ言う事をしているのかも知れない、なんて事も考えた。
王太子に優しくされて、嫌だと思う人は居ないだろう。
「ふぅ」
緑の隙間からアルフレッドを盗み見て、ルシエルは小さくため息を吐いた。
いつ見てもカッコいいその横顔。
キリリとした眉に綺麗な二重の瞳、スッと通った鼻の下には薄く開かれた唇。
その唇に触れられたことを思い出して、慌てて目をそらす。
前世でもキスしたことはなかった。
つまり、前世から数えて40数年にして初めてのキス。
しかも相手は、人生を跨いで憧れたアルフレッド。
(忘れられる訳、ない)
あのパーティはなかったことにしようと言ったものの、ルシエルはあのキスだけはなかった事にしたくなかった。
これからどんな人生を歩む事になろうとも、大事にしたい思い出だった。
ルシエルの想いは決して告げる事のない想い。
それは前世の苦い経験もあったし、未来がない想いをこれ以上育てるなんて事はできなかった。
ルシエルはいずれルーズベルト家を継ぐ。
どこかの令嬢と結婚して、ルーズベルト家を繁栄させねばならない。
王太子のアルフレッドは言うまでもない。
だから今は、こうして二人きりで過ごせることが、この上ない幸せだった。
ルシエルは自分の想いに蓋をするかの様に、植えた種の上に土をかぶせてポンポンと優しく叩いた。
「はぁ」
アルフレッドもまた、ため息を漏らしていた。
ルーズベルト家の裏庭で話して以来、ルシエルに避けられることはなくなった。
それは喜ばしいことだ。
さらに例のパーティの相手はルシエルだと判明した。
ルシエルは自分の特別だと言うことも分かった。
それも喜ぶべきことだ。
それが解決すれば自分の気持ちはスッキリする筈だった。
だった……けれど、実際はもっとモヤモヤする結果になってしまった。
--ルシエルに触れたい
アルフレッドは雑草を抜きながら煩悩と戦っていた。
裏庭でルシエルを抱きしめた時、身体が反応しまくった。
欲に逆らえず、思わず額にキスをした。
これ以上一緒にいたら押し倒してしまうと理性が叫んで、ルシエルをその場に置き去りにしてさっさとその場を後にした。
今思い出しても、情けない。
あの日からルシエルの事を考えない日はなかった。
それほどルシエルを求めていた。
次に触れたら、自分を抑えられる自信がなくて、必要以上に近寄らないように気をつけているくらいだ。
もし間違って触れてしまえば、ルシエルから拒絶されることは確実だろうとアルフレッドは思った。
それだけはどうしても避けたかった。
花を見るフリをして、チラリとルシエルに視線を向ける。
反応するのは身体だけではない。
心も震えてしまう。
ルシエルの花を愛でるその目は優しくて、自分も花になりたいとアルフレッドが思うほど。
その様子や、ミシェルに対する態度を見る限り、性格も優しいのだろうと想像できる。
媚びる笑顔は一切なく、ほころぶ笑顔は花のよう。
ルシエルの笑顔を見せられたら、癒される気さえした。それはまさに、花を見るかのごとく。
優しい声は耳に心地良く、もっと自分の名を呼んでほしいと願ってしまう。
王太子だからといって取り入るような態度や言葉もない。
どこを取っても、可愛らしくて仕方がなかった。
(俺は、男色なのかもしれない)
いつかのレオンのその言葉は正面から否定したが、今はその自信がない。
しかし、他の男にこんな感情は微塵も湧かない。
ルシエルだけ。
ルシエルがアルフレッドにとっての特別だった。
あの瞳が自分だけを写したらどんな風になるのだろうか。
あの唇から吐息が漏れたらどれほど可愛らしいだろうか。
そんな事を考えながらルシエルを見つめるアルフレッド。
ふと、ルシエルがアルフレッドの方を向いた。
目が合うと、お互い照れたように笑顔を浮かべて、そっと目を外した。
この場面を誰かが見ていたら、すぐに想い合う二人だと気付いただろう。
目を逸らした二人はそれぞれ頬を染めていたから。
それに気付かないのは二人だけ。
そんな状態のまま、春が過ぎ、アルフレッド達の卒業の日がやってきた。
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