アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
卒業式のあと …1
-
ルシエルはその日は朝から沈んでいた。
卒業式は全生徒が出席し、卒業生を見送る。
この日が過ぎれば、もう学園内でアルフレッドと会う事はほぼ無くなるだろう。
クラブも退部するので、温室で会う事も叶わなくなる。
今日は、卒業式が終わったら温室で会おうとアルフレッドに言われていた。
ささやかな幸せを感じられるのも今日で最後だと思うと、ルシエルは胸が締め付けられて仕方がなかった。
卒業式は滞りなく進んだ。
卒業生代表のレオンの挨拶を聞きながらミシェルがハンカチで目を抑えた時、ルシエルは驚いた。
誰かとの別れで泣くようなタイプではなかったからだ。
ミシェルは確実に変わっていると、ルシエルは感じた。
全ての用事が済むと、ルシエルはミシェルと別れて温室へと向かう。
途中で、女生徒が輪になっているのを見て驚いた。
どうやら、男子生徒に群がっているようだ。
それはルシエルが前世でも見た事のある景色。
卒業生の第二ボタンを……的な感じだ。
実際は淑女としてはあり得ない行為だが、羽目を外せるのは学生のうちだけと言うことで、大目に見られていた。
ここを卒業すれば、決められた相手と結婚しなければならない女生徒がほとんどだからだ。
そんな女子の集団から知った名前が聞こえてきて、ルシエルはドキッとした。
--アルフレッド様はどちらに?
それを聞き取ったルシエルは、アルフレッドとこの後会えるのだろうか?と不安になった。
アルフレッドは間違いなく女生徒に囲まれるだろう。
その中にはアルフレッドと親しくしている者もいるはずだ。
過去に付き合った子もいるかもしれない。
自分なんかと会うよりその子達とこの後過ごすんじゃないだろうか、とルシエルは考えた。
そんな事を考えながら中庭を歩いていると、一人の女生徒に声をかけられた。
手に花を持っているから、卒業生だろう。
「あのっ、ルシエル様」
その生徒は、手紙をルシエルに押し付けた後、ルシエルのハンカチが欲しいとねだってきた。
どうして良いか分からなかったルシエルは、早くその場から逃げたかったこともあり、大人しくハンカチを渡した。
「なんで…僕に?」
女生徒が去った後、今押し付けられた手紙を眺めていると、後ろからジローに声をかけられた。
ジローとはすっかり仲良くなって、今は友達だ。
「ルシエル君、こんなところでどうし……あっ、それ」
ルシエルの手元の手紙を見て、ジローは焦った顔をした。
「ルシエル君って、婚約者いなかったよね?」
「?うん」
「ヤバイよ!もしかしたら、ルシエル君を狙って女の人が押し寄せるかも!」
「えっ?なんで?」
「ここを卒業した兄から聞いた事あるんだけど、卒業式後のイベントで、婚約者のいない人は狙われやすいらしいよ」
「えっ?何それ?」
ジローの話を聞いたルシエルは焦った。
卒業式後に最後の思い出として、想い人やら憧れの人やらから何か身に付けているものをもらうのは、イベントとして定着しているそうだ。
狙われるのはモテる人達だが、中には婚約者がいない人にダメ元で求婚したりする人もいるらしい。
ルシエルが持っている手紙には、告白の類いが書かれているのだろうとジローは言った。
それを聞いてルシエルは焦った。
この後また女生徒に絡まれたりなんかしたら、アルフレッドと会える確率が下がる。
会えたとしても、その時間が短くなるだろう。
「早く帰った方がいいよ。皆、最後だから必死だよ」
そう言うジローの言葉に、ルシエルは言葉を詰まらせた。
「いや、でも、ちょっと温室に用事があって……」
「そうなの?大丈夫?気をつけてね?」
「分かった。ありがとう!」
ジローに手を振りながら、ルシエルは足早に温室へと向かった。
裏庭に出たところで、温室の前に女生徒が数人いることに気付いた。
慌てて、近くにあった用具倉庫に入る。
ここは、園芸クラブが使っている倉庫で、2畳ほどの広さの建屋の中に土や肥料、スコップや植木鉢などがしまってある。
そっと扉を閉めて奥の明かり取りの窓から外の様子を伺うと、女生徒の話し声が聞こえてきた。
「ルシエル様もアルフレッド様もいらっしゃらないわ」
「どちらに行かれたのかしら?」
「中庭に行ってみましょう」
そんな事を話しながら女生徒が去って行く間、ルシエルは息を潜めてジッとしていた。
声が聞こえなくなって一息ついたところで、また別の女生徒の声。
こちらも誰か探しているようだ。
それが数回続いた。
(こんな事じゃ、温室に行けないよ!)
ルシエルは焦る気持ちを抑えつつ外の様子をそっと伺う。
アルフレッドも同じような状況で、ここに来れないのかもしれない。
しかし、もし来た時にすぐ気付けるようにという理由で、ルシエルは窓の外を見続けた。
30分ほどその場で過ごしたルシエルは、半べそをかいていた。
せっかく、アルフレッドが誘ってくれたのに。
温室で会えるのは、これで最後かもしれないのに。
このままアルフレッドに会えないまま、この関係が終わってしまうのかもしれない。
そう思うと、切なくて寂しくて仕方なかった。
外から聞こえる女生徒の声が少なくなって来た頃、こちらにかけてくる足音がした。
ルシエルがそちらを見ると、少し髪がボサッとしたアルフレッドが見えた。
その様子は、女生徒に揉みくちゃにされて逃げて来たといった感じだ。
慌てて倉庫から飛び出して「アルフレッド様!」と声をかける。
こちらに気付いたアルフレッドが足早に倉庫の前へと来た。
「待たせてごめん!それよりどうしてこんなところに?」
ルシエルがアルフレッドの問いに答えようとした時、アルフレッドを追いかけて来たのか、女生徒が裏庭に向かって来ていた。
それにいち早く気付いたルシエルは、アルフレッドの腕を掴み倉庫に引き込んでドアを閉めた。
奥の壁までアルフレッドを引っ張り、守るようにして「静かに願いますっ」と小声で伝えた。
誰かが近付いて来る気配を感じ、二人して身を硬くした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
43 / 166