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ミシェルと恋愛物語 …1
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これは、ルシエル達が夏休みに入って5日後のこと。
王宮の中庭の一画に置かれたテーブルに、アルフレッドとミシェルが向かい合って座っていた。
「今日は……ありがとう」
お茶が準備され、給仕達がテーブルを離れたところで、アルフレッドがそう切り出した。
「御礼を言われる覚えはございませんわ」
ミシェルは優雅に笑ってそう答えた。
「しかし、ミシェルさんのあの発言は、僕を助けるためでは?」
「いいえ。あれは私のためでした。あの言葉に何一つ、嘘はございませんから」
ミシェルの言葉に、アルフレッドは驚いた。
「え?それは、つまり……」
「恥ずかしながら、そういう事ですのよ」
この二人の会話の内容は、約30分前に遡る……
二人はこの国の国王と王妃に呼ばれて、王城の謁見の間にいた。
その内容は、息子が我儘を言ってミシェルに迷惑をかけた事に対する謝罪だった。
簡単に言うと『婚約破棄とかうちのバカ息子が言ったみたいだけど、そんなの気にせず、これからもよろしくね。ミシェルちゃん』という感じである。
国王と王妃は、恋愛結婚推奨派である。
アルフレッドが婚約者を決めたと言ってきた時は手放しで喜んだし、ミシェルがそれを受けた時も二人でキャッキャと盛り上がった。
そんな二人は、アルフレッドとミシェルは相思相愛だと勘違いしており、今回の婚約破棄騒動は、アルフレッドの浮気が原因だと考えたのである。
その国王の考えに待ったをかけたのはミシェルである。
「実は、私からも婚約破棄をお願い致したく……」
という感じで、国王と王妃に爆弾を落として"正式な決定は後日"と言う、ほぼ婚約破棄決定のお言葉をいただくことに、ミシェルは成功したのである。
そして、ミシェルが婚約破棄を願い出た理由。
それはアルフレッドと同じ理由だった。
「他に愛する人を見つけた」ということ。
「私、羨ましいと思いましたの」
ティーカップを持ち上げて、風にそよぐ花たちを見ながらミシェルはそう言った。
「アルフレッド様が私に婚約破棄を打診されたでしょう?あの時、自分の気持ちに正直になれるアルフレッド様を、羨ましいと思いましたの」
あの時の事を思い出して、アルフレッドは申し訳ない気持ちになっていた。
ルシエルに婚約破棄の話をされたその日に、アルフレッドはミシェルに会いたい旨を伝える手紙を出した。
それからすぐ、ミシェルに婚約破棄の話をしたのだ。
「突然……前踏まれもなくあの様な事を言って……申し訳なかった」
頭を下げるアルフレッドをミシェルは慌てて制した。
「いいえ。でも……ふふっ。確かに、婚約者に『他に愛する人ができた』だなんて。ふふふっ。普通なら簡単に言える事ではございませんものねっ」
「っ!!本当に、申し訳ない」
アルフレッドは婚約破棄をしたい理由として、ミシェルに正直な気持ちを話していた。
もちろん、ルシエルの名前は伏せたが。
ミシェルに非があるわけではない。全て自分の不徳の致すところだ、と伝えるにはそれが一番だと思ったからだ。
「謝る必要はございません。アルフレッド様には、ある意味感謝しているくらいですわ」
アルフレッドからその話をされた時、ミシェルは驚きはしたが、すぐに納得した。
アルフレッドは優しいが、そこに恋や愛と言った感情は感じなかった。
だから、他に好きな人が出来たと聞いても、驚きはしても悲しくはならなかった。
本が好きなミシェルは、恋愛物語が特に大好きだった。
祖父の集めてくる海外の物語には、主人公が王子様と結ばれる内容が多く、ミシェルもそう言う恋愛に憧れた。
なので、本物の王子様から婚約の話があった時は舞い上がったものだ。
初恋もまだだったミシェルは、優しくて美しい見た目のアルフレッドにすぐに惹かれたが、本の中の王子様に感じるようなトキメキをアルフレッドに感じることはなかった。
現実はそういうものなのだろうと、何となく過ごしていた時、ミシェルは運命的な出会いをする。
その人の見た目は、想像していた王子様像そのものだった。
一目惚れだった。
その後、声を聞いてはトキめき、微笑みかけられてはトキめき……と会う度に胸が苦しくなる想いをした。
これが恋なんだと知った時には、もう遅かった。
自分には婚約者がいる。
しかも相手は自分の婚約者の側近なのだ。
自分の事をそういった対象で見てくれるわけがない。
許されざる恋。諦めなければならない恋。
そんな辛い思いをしている時に、アルフレッドからの婚約解消の話がきた。
素直に羨ましいと思った。
政略結婚がほとんどのこの世の中で、ただ他に好きな人が出来たという理由だけで婚約破棄をしようとした行動力に。
普通なら、許されない馬鹿げた理由。
しかし、そこまで誰かを愛することの出来る想いを羨ましいと思い、また応援したくもなった。
そこで、アルフレッドの行動力に勇気をもらったミシェルは、今回こうして国王である彼の父親に自分の気持ちをぶつけたのだ。
それは、アルフレッドの為というより、自分のためといった部分が大きかったが。
「これで私も、心置き無く恋愛を楽しめますわ。きっと、あの方を落としてみせます」
「……あの方?」
「い、いえ!何でもございませんわ。……と言うか、アルフレッド様は、これからが本番ですのよ?頑張ってくださいませね?私との婚約を破棄しておいて、意中の方と結ばれずに、結果その辺のご令嬢と結婚、なんてことになったら、許しませんわよ?」
「……っ」
ミシェルのその言葉に、アルフレッドは下を向いた。
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