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旅の恥はかき捨て …1
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その日は朝早くから家の中が少し騒がしかった。
「なんでまた……婚約破棄する相手と旅行などと……」
昨日の晩から、二人の父はずっとこんな調子である。
アルフレッドとミシェルは、まだ正式に婚約破棄をしていない。
ミシェルはそこを利用して「二人の関係を見直すため」と言う理由をつけて、両親を納得させ今日の旅行に漕ぎ着けた。
しかし、父親としては複雑な気分である。
近いうちに婚約が破棄されるかもしれないからこそ、ミシェルの行動が理解できないのだ。
「まぁまぁ、宜しいではありませんか。今だけですのよ?こんな風に遊べるのは。それに二人きりではないのですから。ルシエルも行くのですよ?心配するような事はありませんわ」
「しかし……でも……」
母の言葉も、昨夜から同じ事の繰り返しである。
意外とこう言う事に理解を示す母に、ルシエルは驚いた。
そして、このやりとりを見たルシエルは、何度となく小さくため息を吐くのであった。
(本当に、何で今さら旅行になんか……いや、ミシェルの好きなレオン様も来るから、って事は分かってるんだけどね?……あー!まだよく分かんないや!てゆーか、何で僕まで行かなきゃならないの)
ルシエルは混乱していた。
ミシェルから婚約破棄とレオンに対する想いを聞いた時、この世界に、何が起こっているのかと必死で考えた。
実は「破棄する」詐欺で、二人はこのまま婚約を続けて、そのうち婚約発表をするのだろうか、とか、一度破棄するが、やっぱり他に手頃な相手がいなかったから再度婚約するのか、とか。
何にせよ、自分はもう何も手出ししないようにしなければ、とルシエルは考えた。
ミシェルからレオンとの事を応援してくれとは言われたものの、また自分が起こした行動が、良からぬ方向に行ったらと考えたら、複雑な気持ちになるのであった。
今回の旅行の行き先は、いわゆる高級リゾート地である。
大陸の北にある大きな湖沿いに、お金持ちの貴族達が別荘を構えている。
王都から馬車で一日足らずで着くと言う近さも、人気の理由だ。
そこに、王家所有の土地と別荘もある。
湖半分、山一つ分の土地を所有しており、もちろん関係者以外立ち入り禁止だ。
今回の旅は、別荘で三泊して帰って来る予定だ。
本来避暑と言えば、長期滞在したりするのだが、そこはミシェル達の父親が許さなかった。
いつもより早い朝食を食べ終わって程なくして、アルフレッド達が迎えに来た。
二頭引きの馬車が三台、ルーズベルト家の前に止まった。
防犯のため、見た目は質素だが、造りは丈夫で中身は豪華だ。
それぞれ、アルフレッドとレオン、ミシェルとルシエル、そして使用人が乗る。
離れた場所には、アルフレッドの護衛が着く予定だ。
「おはよう」
「おはようございます。晴れて良かったですね」
アルフレッドとレオンが馬車から降りて、出迎えたルシエルとミシェルに挨拶をした。
「おはようございます。ええ。本当に良い天気ですわね」
「おはよう、ございます」
ルシエルは、アルフレッドの顔がまともに見れなかった。
何せ、温室で気不味い感じで別れてから、初めて会うのだ。
どんな顔をしてアルフレッドに会えば良いか分からなかったし、アルフレッドが自分をどう思っているか、気になって仕方がなかった。
それから両親に挨拶をして、一行はすぐに出発した。
「もう〜。こんな旅行初めてなんだから、もっと楽しそうな顔をしなさいよ」
二人きりの馬車の中でずっと景色を見て一言も話さないルシエルに対して、ミシェルが小言を言った。
「うん……」
「なに?楽しみじゃなかった?」
「あーいや……楽しみ、だけど」
ルシエルが最初に旅行の話を聞いた時は、行くのを渋った。
けれど「別荘の近くに背の高い黄色の花畑があって、丘からの眺めは絶景らしい」とミシェルから聞いて、行きたくなったのだ。
ミシェルからその話を聞いた時、ヒマワリではないかとルシエルは思った。
前世でも写真でしか見たことのないヒマワリ畑が見てみたくなったルシエルは、渋々ながらも行くと返事をした。
もちろん、花の話を持ち出したのはミシェルの作戦である。
「楽しみだけど?なぁに?」
「いや……その、やっぱり、王家の別荘に行くなんて畏れ多くて……」
「ふーん。なんだ。そんなこと」
ルシエルの適当な答えに、ミシェルはつまらなそうに返事をした。
それからまたしばらく沈黙が訪れた。
今度はルシエルがその沈黙に耐えられなくなって、少し前から聞きたくて聞けなかった事を口にした。
「あの、ミィ?そう言えば……その、アルフレッド様との婚約破棄って、どうしてそんな話になったの?」
「えっ?今さら?」
「えっ?う、うん……いや、やっぱり聞き辛くて……」
ルシエルの言葉に、ミシェルは「うーーん」と考えるそぶりを見せた。
「そうね。ルゥはアルフレッド様の噂のことも気にしてたし、何か悪い方向に考えてるのかしら」
「う、うん。そう。気になって」
実際ルシエルは、アルフレッドから話を聞いていたし、婚約破棄を切り出したのはアルフレッドだろうと思っていたが、どんな理由をミシェルに伝えたのか気になっていた。
「まぁ……理由は言えないわ」
「えっ?」
「でも、お互いちゃんと納得してそうなったのよ。悪い話は一つもなかったわ。円満解消よ。だから、ルゥが気にすることは何もないのよ」
「そう、なの?」
それ以上、何か聞ける雰囲気ではない事を感じ取ったルシエルは、もう黙るしかなかった。
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