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旅の恥はかき捨て …7
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その日の夕食、ルシエルは食堂に顔を出さなかった。
体調不良と言ったが、本当のところは、アルフレッドと顔を合わせられなかったからである。
アルフレッドだけではない、ミシェルにもどんな顔を見せれば良いか分からなかった。
それが悪い事だとは分かっても、どうしても皆の前で普通の顔をする自信はなかったのだ。
夕食後、ミシェルがルシエルの部屋を訪れた。
「ルゥ〜?大丈夫?」
返事のない部屋に入ったミシェルは、近くの椅子を寄せて、ベッドの側に座った。
ルシエルは頭からすっぽり布団を被っている。
「ルーウ?ルシエルー?」
しばらく反応を待ったミシェルだったが、ルシエルが何も言わないので、勝手に喋ることにした。
「体調が悪いのは、嘘でしょ?」
「……アルフレッド様と、何かあった?」
「……あったのね?」
「……何があったの?」
ルシエルは布団に包まったまま、なにも言わなかった。
しばらく、沈黙が二人を包む。
「ハァ……言わないと分からないわ」
ミシェルか痺れを切らして、苛立ちを込めてそう言うと、布団がモゾリと動いた。
そして、ルシエルが布団から頭を出した。
と言っても、顔はミシェルからは見えなかった。
「ご、めん」
それはとてもとても小さな声。しかし、それを聞き取ったミシェル。
「なにが?」
また少しの沈黙の後、ミシェルが突っ込む。
「何か、私に謝るようなことしたの?」
「……」
「ねぇ?言わなきゃ分かんないじゃない?なんなの?ねぇ?」
苛立ったミシェルがガバッとルシエルの布団を剥ぐ。
「最近のルゥ、変よ?何なのよ!私には素っ気ないし、アルフレッド様には冷たいし!ねぇ?何なの?私、そんなルゥ、嫌だわ!!」
「ごめん……っ」
「だから、何がゴメンなのよ!」
ミシェルがルシエルの胸ぐらを掴んで引き起こした。
そこに涙で濡れたルシエルの顔が現れる。
その顔に一瞬怯んだミシェルだったが、鬼の形相は崩さなかった。
ミシェルの顔を見たルシエルは、それに反抗するように声を上げる。
「だって!僕が動けば、ミィが不幸になるんだもん!!」
「…………はぁ?」
チンピラにも負けない程のガンを飛ばしながら、ミシェルはルシエルを見下ろした。
「なにそれ?意味が分からない。私のどこが不幸なの?」
「今はまだ、分かんない、かもしれないけど……っ!いつか、分かるよ!アルフレッド様との仲を、僕がっ……」
「……なんでそこでアルフレッド様の名前が出るの?」
「と、とにかく、僕が……アルフレッド様のことを怒らせたから……」
ルシエルは腕で涙を拭った。
「アルフレッド様を、怒らせた?」
腕で顔を隠したまま、ルシエルが頷く。
「どう言うこと?……何があったの?何をしたの?」
「……」
ミシェルの声が、低くなったのをルシエルは感じた。
それはそうだ。アルフレッドは皇太子なのだから、それを怒らせるのは相当な事だ。
どれだけ家に害が及ぶかミシェルは心配しているのだろうと、ルシエルは思った。
しかし、何があったかを説明する事は出来なかった。
ルシエル自身、よく分かってなかったからだ。
ミシェルの方は、そんな事を考えていた訳ではなく、なぜ両想いであろう二人がそんな事になっているのかと混乱していた。
「もしかして……何か、されたの?」
「……」
ルシエルは何も言わなかったが、何かを感じ取ったミシェルはルシエルを掴んでいた手を離した。
「分かった。ちょっと、アルフレッド様を殴ってくるわ」
ミシェルは、アルフレッドが気持ちを抑えられずにルシエルに無体を働いたのだと思った。
それでルシエルが泣いているのだと思うと、居ても立っても居られなくなった。
「はっ?ちょっ!!何でっ?!」
ルシエルは慌てて起き上がって、ミシェルの腕を掴む。
涙は一気に引っ込んだ。
「止めないで。……って言うか、私こそルゥに謝らなきゃならないわ。……私、ルゥはてっきりアルフレッド様の事を好きなのかと思ってた。だから、二人きりにしたのよ」
「え?」
ミシェルの告白に、ルシエルは大いに驚かされた。
「でも、それは間違ってた。アルフレッド様は、嫌がるルゥに無理矢理何かしたんでしょう?一発殴らなきゃ……いえ、殴れなくても、文句の一つくらい言わなきゃ気が済まないわ!」
「ちょ!違う!あれは無理矢理じゃなくて!」
「……え?……無理矢理、じゃない?」
ルシエルは、アルフレッドとのアレコレを思い出して、頬を染めた。
ルシエルのその反応に、ミシェルは混乱した。
「えっと?……無理矢理じゃない、けど、何か、嫌な事、されたのよね?」
「嫌な事、じゃなくて……って、いや、そうじゃなくて!あぁっ、もう!」
さらに顔を赤くしたルシエルに、ミシェルもつられて頬を染めた。
「えーっと……何?何かされたけど、嫌じゃないって……もしかして、ルゥはアルフレッド様の事が好きで、何の言葉も無く何かされたから、ルゥが怒って、それで」
「な、な、なっ!何言ってんのっ?そんなんじゃないよ!とにかく、アルフレッド様は何も悪くないから!」
「待って、これだけは教えて!ルゥはアルフレッド様の事が好きなの?」
ミシェルを止めるために掴んでいたルシエルの腕を、ミシェルは空いていた方の手で掴んだ。
そうしてルシエルの目を覗き込む。
その瞳が揺らぐのを見て、ミシェルは確信した。
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