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旅の恥はかき捨て …8
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「ルゥはアルフレッド様の事、好きなのね?」
違うと否定したかったのに、ルシエルはそれができなかった。
それほど、アルフレッドの事を想っていたのだ。
そして、その顔は真っ赤に染まっていた。
「隠さなくてもいいのよ?言ったでしょう?相手が誰でも応援するって」
ミシェルが真剣な顔をしているのを見て、ルシエルはハッとなった。
いつからか分からないが、ミシェルはルシエルの気持ちに気付いていたのだと。
ルシエルが再び泣きそうな顔になると、ミシェルは優しく微笑んだ。
「えーと。で……二人の間に何があって、ゴホン……それで?ルシエルがアルフレッド様を怒らせて?……で?何で私が不幸になるのかしら?」
「……っ、それは……」
言えるわけがない。
これから始まる事、その先に待っている事。
自分の行動によって、そこにレールが敷かれていく事を。
「何を考えてるか分からないけれど……アルフレッド様と私はもう何でもないのよ?」
「でも……」
ミシェルは、ルシエルは自分に遠慮してアルフレッドを拒んだのではないか、という考えが浮かんだ。
ミシェルがまだアルフレッドの婚約者であるから『僕が動けば不幸になる』と言ったのだと解釈した。
ルシエルは、思い詰めて泣くほどにアルフレッドとミシェルの間で揺れたのだ、と。
そう考える事しか出来なかった。
ミシェルはルシエルの腕を掴んでいた手を離した。
「私、レオン様と明日も二人で出掛けるわ。もう夕飯の時にアルフレッド様には了承を取ったから」
「……?」
「そこで私、レオン様に告白するわ。だから、ルゥも頑張りなさい」
「……えっ?……はっ?いや、でも、まだアルフレッド様との婚約が……」
「だーかーら、それはもうほぼ確定なの。書類上のやり取りだけだわ。お互いの両親が了承済みなのだから」
そう言われても、ルシエルはまだ信じられなかった。
「見てて?きっと上手く行かせてみせる。……そしたら、ルゥは私に遠慮する必要は無くなるわよね?」
そう言って笑うミシェルを見て、彼女は自分のために動いてくれるのだとルシエルは気付いた。
「ま、待って!ミシェルにそんな事させられない!」
「あら、どうして?私が幸せになるために、私が行動する事の何が悪いの?」
「それは……」
ルシエルは考えた。
もし本当に婚約が破棄されて、ミシェルとレオンが結ばれたら……
それはゲームとは違う世界だ。
ルシエルが今まで悩んできた事は、全て解消される。
ミシェルの自信のある顔を見ていたら、もしかしてそう言う未来もあるのかも知れないと、ルシエルは小さな光を見た。
「とりあえず、ルシエルは私の事より自分の幸せを考える事が先だわ」
「僕の、幸せ?」
「そうよ。私の不幸とか、訳の分からない事もう言わないで。それより、自分の幸せを考えてちょうだい。分かったわね?」
ふと、アルフレッドの顔が浮かんだルシエルは、フルフルと首を振って下を向いた。
「まぁ……何より大事なのは、ルゥはアルフレッド様とじっくり話すことね。そして、その情けない顔を何とかして頂戴」
「え?」
ルシエルが顔を上げてミシェルを見ると、何故かミシェルはニヤリと笑っていた。
「さーて、私は明日のために早く寝なくちゃ。それじゃ、ちゃんと自分の幸せ考えてね?おやすみなさーい」
「えっ?えっ?」
最後はいつものミシェルと同じく、言いたい事だけ言って、部屋から去って行った。
バタンと閉められたドアに向かって、ルシエルは呟いた。
「僕の……幸せ……?」
考えたこともなかった。
自分はミシェルのために何かしなければ、と今までやってきたのだし、それ以上に同性が好きな自分が幸せになれる未来なんて想像出来なかった。
さらに、今自分が好きなのは、アルフレッドだ。
アルフレッドはノーマル。しかも関係は険悪。
自分と結ばれる事は決してない。
つまり、自分は幸せになんてなれない。
そう考えて、ジワリと胸に黒いものが広がる。
その瞬間、ドンドンとドアがノックされた。
ミシェルが何か忘れ物をしたのかと思ったルシエルだったが「はい」と返事をしたあとドアから顔を覗かせたのは……アルフレッドだった。
「あっ、アルフレッド、様っ!」
ルシエルは寝たままでは失礼だとベッドから飛び出て立ち上がる。
そんなルシエルを見て、アルフレッドは慌ててベッドの横までやって来た。
「体調が悪いのだから無理するな。ほら、横になって」
「あっ、いえ。その……」
とりあえず促されたままベッドに腰掛けたルシエルは、さっきまでミシェルが座っていたベッド横の椅子をアルフレッドに勧めた。
ベッドにくっ付くように置かれていた椅子を少し離してから座ったアルフレッドを見て、ルシエルは胸がスッと冷えるのを感じた。
「あ、そうだ。お茶でも!」
そう言って、ルシエルが侍女を呼ぼうとすると、アルフレッドはそれを制した。
「気にするな。それより、二人で話したいことがある」
ルシエルの顔を見ずに、そう言ったアルフレッドに、ルシエルは自然と背筋が伸びた。
「話、とは何でしょうか?」
先ほどの不敬を何か叱られるのか、とルシエルは身構えた。
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