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旅の恥はかき捨て …12
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「〜っ!!…………ハァハァ」
次の朝、ルシエルはベッドから飛び起きた。
久しぶりに思い出した。
と言うより夢に見た、前世の自分。
男が好きで、その悩みに心を蝕まれながらひっそり暮らしていた。
社会人になって好きになったのは、二次元の世界の住人のみ。
仕事以外は妄想の世界で生活していたと言っても過言ではなかった。
職場に親しい人もなく、学生時代からの友人とも縁を切っていたので、一人の時間は腐るほどあった。
(一人は寂しい。一人はもう嫌。誰かと一緒にいたい!誰かに求められたい!)
夢の中の前世のルシエルは、そう叫んで泣いていた。
それが現実にあった事か、ただの夢なのか、もうだいぶ前の事なので、ルシエルには分からなかった。
ポタリ、とシーツに何かが落ちる音がした。
ルシエルが下を向くと、水滴が落ちている。
「?」
何気なく、頬に手をやると、そこが濡れているのが分かった。
ルシエルは、泣いていた。
何故泣いているのか分からなかったけれど、夢で流していた涙が現実にも流れていることに驚いた。
そして、涙に気付いたルシエルは、新たな涙を流した。
あまりにも過去の自分が可哀想だったからである。
そしてふと気付く。
今の自分は、なんて恵まれているのだろう、と。
もしこの状態を過去の自分が知ったら、なんて言うだろうか。
「あ……」
その視点に立ったルシエルは、自分に雷が落ちた様な気がした。
手の届かないような理想の人が側にいる幸せ。
その好きな人から求められると言う奇跡。
そして、その奇跡の只中に自分はいる。
寝る前にウジウジと悩んでいた事が、霧が晴れる様に消えて無くなった。
自分は何を見るべきか、何をするべきか。
「ん!」
ルシエルは涙をグイと拭って、朝の支度に取り掛かった。
朝食を取るために食堂へ行ったルシエルは、先に座っていたアルフレッドと目が合った瞬間に昨日のアレは夢だったのではないか、と思った。
というのも、アルフレッドが普段と全く変わらない感じだったからである。
それでも生々しく思い出せるアルフレッドの唇の熱さに、ルシエルは複雑な気持ちで朝食を口に運んだ。
朝食の後、皆で花畑に向かう事となった。
ミシェルとレオンは宣言どおり午後から二人で街へと観光に行くとの事で、ルシエルとアルフレッドも誘われたが、ルシエルはもちろん断った。
ミシェルの邪魔をするつもりはなかったし、アルフレッドに返事をしたかったのもある。
ちなみにアルフレッドも街へ行くのは断った。
花畑までは警備の意味もあり、馬車で行くらしい。
準備をした後、別荘に来た時同様、ルシエルとミシェル、アルフレッドとレオンに別れて馬車に乗り込んだ。
「で?昨夜はどうだったの?」
「えっ?」
どう?と聞かれて、ルシエルは顔を真っ赤にした。
アルフレッドとのベッドの上でのあれやらこれやらを思い出したからである。
しかし、ミシェルが聞いたのは、そういう事でないのはルシエルにも分かっていた。
「うっ、うん。ありがと。ちゃんとアルフレッド様と話せたよ」
ルシエルがそう言うと、ミシェルが嬉しそうに微笑んだ。
「うん。良かったわ。今朝の二人の雰囲気も悪くなかったし、私も一安心よ。……で?」
「ん?」
「で?」
ミシェルは目をキラキラさせてルシエルを見た。
「二人の想いが、通じたのか聞いてるのよ!」
ミシェルの言葉に、ルシエルは再び顔を赤くした。
そして、小さくコクリと頷いた。
「まぁ!まぁ!夢の世界が現実に!……っ、いえ、独り言よ。うふふっ!よかったわね!ルゥ!で?お付き合いするの?するわよね?」
「おつき……いや、それは、その……っ!」
「あぁ!萌える!……じゃない、燃えるわ!私、二人の恋、しっかりと応援するわ!!」
そう言ったミシェルはなんだかひとりで妄想の世界へと入っていった。
そんなミシェルを見て、ルシエルは泣きそうな気持ちになった。
前世の家族なら、どうだったろうか。
もしカミングアウトしたら、受け入れてくれただろうか。
答えは、否だ。
それからすると、今世の自分は何て恵まれているのだろうと、ルシエルは考えた。
改めて奇跡の連続に感謝せざるを得なかった。
そして、ルシエルの気持ちは確実に固まった。
とりあえずアルフレッドとちゃんと向き合おうと。
先のことは、その時になって考えれば良い。
「ミィ……大好き」
そう言って、そっとミシェルの手を握った。
手を握られたミシェルは、ハッと我に帰り、それからルシエルを見て優しく微笑んだ。
「私も大好きよ」
ミシェルはルシエルを抱きしめた。
初めて成功した告白に、ルシエルは堪らず涙が溢れた。
身体を離したところで、ミシェルがこんな事を言い出した。
「ねえ、ルゥ?」
「ん?」
「あのね?もし、もしよ?男同士の、その……分からないことがあったら言ってちょうだい?って言うか、その……今度、本を貸すわ!」
「本?」
「えっと、うん。そのうち、きっと、必要になるから、まぁ、今は良いわ。そのうち、そのうちね」
ミシェルは顔を真っ赤にして、それ以上何も言わなくなってしまった。
そんなミシェルを見て、ルシエルはなぜか幸せを目一杯感じた。
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