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それぞれの思い …6
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「まぁ!まぁ!なんて事!!グラシアン陛下は何をお考えなのかしら!」
ミシッと、母フロレンツィアの持っていた扇子が音を立てた。
「酷いです!なぜ愛し合う二人を別れさせる必要があるのでしょう!」
コレットは目に涙を浮かべた。
「まさか、そのお言葉、お受けになられた訳ではございませんよね?」
ジャックが目を光らせて静かに言った。
「お、お前達、落ち着け。分かる!気持ちは分かる!しかし、相手は王太子なのだ。それこそ、跡継ぎが必要なのだ!どうにもならぬのだ!」
「それは、そうですが……だからと言って、無理矢理別れさせるのはあの子が可哀想だわ!世継ぎが必要なら、側室を取るとか。……いえ、それはそれで可哀想ね。あぁ、どうしましょう」
「側室と言っても……そもそも、この国では男子同士では結婚出来ないではないか。つまり、アルフレッド殿下は、いつかは女子と結婚する。……国王陛下は、傷が深くなる前に、つまり、付き合いの浅いうちに二人を離してしまおうとお考えなのだ。ルシエルとアルフレッド殿下、お互いのためなのだ」
辛そうにそう言った父ラウルに対して、皆が言葉を詰まらせた。
分かっている。
この国で同性婚は認められていない。
もしルシエルとアルフレッドが愛を貫こうとすれば、二人は独身となる。
しかし王太子、後の国王が独身などとは聞いたことがない。
「それに陛下は、アルフレッド殿下は気まぐれでルシエルと付き合っているのではないか、とおっしゃっていた。だから」
「はぁ⁈」
ジャックが、父ラウルの言葉を遮って声を上げた。
「あ、いえ……失礼しました。ただ、その、アルフレッド殿下が気まぐれなどとは……お側でお二人を拝見する限り、その様な事は決してないかと」
「そうなのか?……しかし、アルフレッド殿下には悪い癖もあったろう?」
「ですがっ」
「お前は、アルフレッド殿下をどれ程知っている?私だって信じたい。ルシエルはアルフレッド殿下に……その、ちゃんと愛されていると。しかし、以前の殿下の行動を知る限り、簡単には割り切れないんだ」
「……っ」
ジャックが知っているのは、ルシエルと関わるようになってからのアルフレッドである。
いくらジャックが側から見て二人が本気で愛し合っていると言ったところで、そこに真実味は無い。
以前付き合っていた数多の女達にも同じように愛を囁いていた可能性が、無いとは言い切れないのだ。
「あぁ、どうしましょう。そうだわ。ルシエルをここに呼んで、今後の対策を考えるのはどう?本人が蚊帳の外なのは可哀想だわ」
母フロレンツィアの言葉に、父ラウルは首を横に振った。
「お前は言えるのか?アルフレッド殿下の愛が本物か分からない事。それに、陛下が反対しているという事。傷の浅いうちに別れよ、という事を」
「い、言えませんわ」
「そうだろう。私はルシエルを悲しませたく無い。しかし、どうすれば良いか分からないのだ。ルシエルが本気ならば、尚更……」
父ラウルの溜息の後、しばらく部屋に沈黙が訪れた。
「私は、とことん応援したいですっ!」
沈黙を破ったのは、コレットであった。
彼女は、ルシエルをミシェルに変身させた時から、あらゆる妄想を繰り広げていた。
それ故か、コレットはミシェルがアルフレッドから婚約を申し込まれた時に気付いたのだ。
今まで接点のなかったアルフレッド殿下とミシェルとの婚約は、あのパーティが原因なのだと。
つまり、パーティでアルフレッドと女装したルシエルの間に何かがあったのだと。
アルフレッドが、ミシェルでなくルシエルを気に入り、ルシエルもまたアルフレッドを意識している事に、いち早く気付いていた。
コレットはそんな二人の関係に気を揉まずにはいられなかった。
人知れず、誰よりも本人たちよりも先に二人を応援したのは、コレットなのである。
「例え……この先どうなろうとも、無理に周りが別れされるのはどうかと!だって、本当に、本当にルシエル様とアルフレッド殿下はお幸せそうなのです!国王陛下がどう望まれようと、二人の幸せを壊す事は許せません!」
「コレット……」
不敬とも取れる言葉があったが、誰もそれを咎めなかった。
母フロレンツィアが、コレットの手をそっと握る。
「あのお二人……天使のように可愛らしいルシエル様と、精悍で眩いアルフレッド殿下。お二人が並べば、それは絵のように美しいのです!二人が寄り添って微笑めば、花の美しさも霞んでしまうほど。……アルフレッド殿下にエスコートされ、はにかむルシエル様!アルフレッド殿下の視線を受け、頬を染めるルシエル様!あぁ、これ以上ない眼福!!」
「コレット?」
コレットの剣幕に、父ラウルが苦笑いした。
「……ハッ!……し、失礼、いたしました。つい……」
無自覚腐女子、ここにあり。
しかし、さらに上を行く者がすぐ側にいた。
「アルフレッド殿下は、ルシエル様にメロメロに違いないのです。ルシエル様の腰に手を添えるあの手付き。頭を撫でる時の目は蕩けきっております。それはそうでしょう!アルフレッド殿下の前にいるルシエル様は、いつもに増して可愛らしいのです!何よりアルフレッド様は、隙あらばルシエル様の唇を眺めます。ある日なんて、そのまま顔を、近付けられたのです!思い出しただけで身震いしてしまう程に、美しい景色でございました。あの後の、ルシエル様の顔!!誰もが抱きしめたくなるに違いありません!えぇ、えぇ、アルフレッド殿下は迷いなく抱きしめておられました。本当に可愛らしいのです、我らがルシエル様は!あの顔を引き出せるのはアルフレッド殿下なのです!あの日、お二人が共に夜を明かした日。ルシエル様は可愛らしいを通り越して、犯罪級の可愛らしさとエロさで」
「分かった!ジャック、分かったから、一旦落ち着け。……って。え?最後にサラリとすごい事言わなかった?」
父ラウルが、震えた。
そして……
コレットとジャックの熱に当てたれた婦人がここに。
「ズルい!ズルいわ!!私も見たい!可愛らしいルシエルを見たい!何それ!頬染めて?な……っ!いやーーーん!想像しただけでキュンキュンするじゃない!!はぁはぁ」
「フロレンツィア……」
父ラウルが、残念そうな目で母フロレンツィアを見た。
「えぇ、分かりました。私達は私達のできる事をするだけです。早速、計画を立てましょう。ジャック、セバスチャンを呼んで。コレット、今後のお茶会のスケジュールを出してくれる?私は全力でルシエルを応援します。もちろん、ミシェルの事もよ。あなたにも、色々と動いてもらいますからね」
「「はい!奥様!」」
「ははは。まぁ、異論はない」
こうして、ルーズベルト家は、一家総出でルシエル達を応援する事となった。
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